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森はどこも同じように見えて

(ふゆ)は、()で、停止(ていし)で、(ねむ)りだ。

清明(せいめい)な空はその(そこ)を知れず

生まれてから見慣れている林、10年ずっと見た普通の森は、全部黒と白に染まる。

大体の世界は止まっていた。

正直どこがどこだかもわからない風景(ふうけい)の続き。この世界どこに行っても空は青くて雪は白いのだろうか?


わたしが人間だった頃ークララの頃は、冬は日差しが弱まり、肌をやられる心配は少ない。としても、もともと寒すぎて死にそうで外に出ることはあまりできなかった。

なにもかも弱かった。

自分の小さい、狭い世界は村どころか家の中の経験(けいけん)でほぼ(おさ)まる。

それでも、ドルイドのばあちゃんの御伽噺(おとぎばなし)を聞いて、いろいろ考えてた。言葉で出来ていた空想の世界は、わたしなりに深く、広くて、高い、この世界を…

健康になんの()も無く生きたかったと思う。普通に息をしたかったと思ったと思うのだ。

それは、健康体のほかの子と、(しな)が高いほかの子供と立場を入れ替わるとかではなくて…自分を(もと)とした素晴らしい形があったらいいな。

自分のなにかの色が(たも)たれる、そういう夢の先を(のぞ)んだ。

(たぶんドルイドのばあちゃんが「白神女(しらかみおんな)に似て綺麗だね」とか言ってくれた影響だ)

森の姫様。


まあ、そういうわたしは一応終わった。

終わって、始まって、なにもかもが止まっている。でも、そのままで偉くなりたくて歩く。

クララの頃は二度と戻らなくて、優しい家族と貧乏な生活となにもかもが痛い苦しい毎日は戻らない。

戻らないんだよな、と、自分にもう混ざっていて取り消しはできないであろう今の心を感じる。


今のわたしは、その頃の病者(びょうしゃ)の立場から完全に変わった、真逆(まぎゃく)の神秘の娘になっている。しかも、感じるもの、できること、覚えるものもいろいろ混ざっていて、これはクララとは言い難い、やはり「ステラ・ロサ」だ。桜のドルイドで、「森の姫様」にわたしはなる!であろう(むすめ)だ。

毎日自分のよくわからない「コア」の安定さを守って化け物との戦いに(そな)えるために筋トレをやったり、自分の使命である「座標の衛星」としての狼の星の事を、その「欠片(かけら)」の事を考えたりしてる。

止まっている()としてはずいぶんと動いていると思うがね。


自分のコア…は、ずっと、不安定だらしい。自分の記憶が、「悪魔」との混ざりが、その悪魔の子がやる気が出たのか自分は知る(すべ)がないのだがーだいぶ安定になっていて、色々できるようになったとしても、ずっと(もろ)くて、コアは(ゆる)くて、そのコアの境界(エリア)とやらは、どこが中央が、どこまでが自分か。その領域(りょういき)も良くわからない、そういう状態が続いているらしいのだ。

これはもともとわたしクララの性格のせいだと思うけど。


とりま、そういう自分は「欠片」を集めなければならない。星の狼。狼に乗って、歩いて、なるべく動き回す。今は、その範囲(はんい)はフィレンツェの都市(とし)と、周りの近所(きんじょ)の森あたりだ。まあ、見回りというにはちょっと足りない、自分の縄張りを確かめるどうぶつのようではなかったのか、と、1か月になった今はちょっと思っているけど。

これは仕方ない理由が何個かあった。


まず、地図などがない。(読み方は不思議にわかるかも知れないけど)

自分が狼さまに乗って、素早く走ることができるとしても、「悪魔の方向」とかはわかるとしても、

その帰り道や、一種の拠点の探しなどなど、どこに行けばいいのかがわからないのだ。

だから、その縄張りを把握するのが精一杯だ。

あっちはフィレンツェの都市があって、こっちは山だ、見た覚えがある形だ、ここを曲がると川が出ます。うむ。という、地理的な曖昧な印に(たよ)りながら

行った事がある道はなんとなく風景を覚えていても、初めての山道に行って、もとのフィレンツェまで、よく訓練をやる川辺(かわべ)(ところ)などに帰ってくることができなかったらどうしよう、とちょっと心配をしている。


でもどんどん広げるしかない。もちろんだ。

「悪魔」は世界中にずっといるはずなんだ。狼の星の欠片は、多分この世界すべてに落ちていて(昨年の流れ星の勢いは凄かったのだ)

それを探す。「欠片の力」で生き返った「悪魔」には、また引導を渡す。回収した星のエーテルを狼さまと自分の力にする。少し普通の人たちに名前を上げる。大事(おおごと)には参加しない。

という目的は「座標(ざひょう)衛星(えいせい)」としても、「森の姫様」としても大事(だいじ)だ。


でも、対策なしに知らない場所に走って、今日からここで寝るぞ、訓練するぞ、することもよくない。

次の悪魔はめちゃくちゃ強いやつかも知れないし、自分がしくじると凄く大変なことになると思うので

わたしはまた、鈍くならないように毎日訓練に集中する必要があるけど、それはどこでもできることではないと思うのだ。

その結果、この周辺をずっと回っただけだった。


欠片。それに当たった「深紅の悪魔」が生き返って活動を始めると、ブイオさまが探知できるけど、

結構遠くからわかるから、移動速度に利点を持っているわたしたちとしては一応発見できていると、先手(せんて)()ることができて有利だと思うけど、もともとだ。

「悪魔」になる前に、「欠片」の段階で探知したら、結構お得ではないか?そう思うけどな。

でも、これが、どうやら「欠片」の段階では探知が難しいようで、わたしはそれがずっと疑問で納得がいかない。


「残念ながら、何回も説明しているのだが、わたくしの欠片がただ活性化してない、休眠状態であると、それが何処にあるのか、わたくしもわからないのだ。」


ブイオさまがそう言った。


「いや、その理屈はおかしいと思うのです。自分の一部でしょう?」


そうだぞ。自分のものを取り戻すに、一応奪われてから探すのは非効率ではないか。


「仕方ないのだよ。考えてみろ。自分のものだとしても、地に落ちているものが、音も出ない。光るはずもない。なんも感じないだろう。」


「そうですね?」


「でも、これを動力(エナジー)に、「深紅の悪魔」が動き出すと、音が出るように、光りだすように感じられるのだよ」


「なるほど。」


「まあ、「悪魔」ではなくても、他の平凡にも、普通のエーテルのリソースだけどな」


つまり、逆をいうと、わたしがすぎた色んな場所にも「狼の星の欠片(かけら)」はあるかも知れないし、ないかも知れないけれど

それをなにかの魔法生物が拾って食ったら勝手に強くなったりして

特に深紅の悪魔が拾うと狼さまはそれを探知することができるという事だ。


「めっちゃ遠くからはわからないという事も、今言ってるのと似たような仕組みですか」


「そうだな」


そして、めっちゃ遠い場所からは、光っても音が出ても良くわからないということだった。

うん。これは本当に終わりない旅になるよ。


「神様の欠片って、めっちゃ多いんですか?20個とか100個とかそんな感じですか?」


「それよりはちょっとおおいね。土の一粒が「悪魔」一人を生き返すことができるとしたら、その土で山が一つできるような感じだ。」


「ちょっとのところではないですね」


「星はデカいんだ」


「なら、この世界が大変になっちゃいますよ。そんなにお星さまは大きいのですか。」


「この世界とほぼ同じサイズだ」


「ええ…」


また良く(わか)らないことを言う。

なら、(てん)にお日様もなくて、お月様もなくて、ただもう一つの世界が見えるようになるじゃないか。まあ、ただ「めっちゃデカい」という表現をしたかったと勝手に考えることにした。


確かに「狼の星」は夜空で一番光ると言われる星のようだ。(わたしはもともと夜空にどの星が狼の星だったかわからんけど)一番光るという事は一番偉くて一番デカいと言っても過言ではないはずだ。


「それは過言だ」


「そうですか」


過言だった。まあ、その星が崩れ落ちて、星のエーテルとやらがこの世のあちらこちらに落ちている、それはまあ山一つになるか。結構の最悪の世界であった。なんということでしょう。


「うむ。世界は広い。「欠片」に影響されるものも厄介で、多いと思うんだ。だからなるべく早めに集めていきたい。

そして以前も言った通り、その旅は結構長くなると思うけど」


「それは承知の上です」


「正直わたくしは人の子の心を知らないから、おまえの心がその長い時間を耐えられるかわからない」


実にわたしも毎朝毎朝「よくも再起動(きしょう)したね」と思うし。


「まあ、それはわたしもわからないことですが。どうやらコツコツに事を続いて仕事をするという事は自分の性質に合うようです。」


「うむ。それは良い事だ。」


「ええ」


これからこの旅路が何年続くかわからないけれど、一応クララとしての自分にはいいチャンスで、気分がよくて、やり甲斐もある、素晴らしい状態だった。いいお仕事で、それは(まこと)だ。


「でも、ちょっと気になる事がある。

それはおまえが時々言う「森の姫様」の流儀とやらとはだいぶ違くないか?

光るわけでもなくて、人の子がそんなコツコツの存在を崇めるとも考えにくい。」


「それはそうかもしれないけど」


ふん。これはわたしが3年、4年前から結論出したことだ。


「わたしは他の人に勝る点は確かにありますから」


「その点とは?」


「長生きする事ですね」


そうだ。わたしは良くも悪くも不変の体を持ってるんだ。多分普通の人の人生は軽く超える定めだ。


「そしてわたししかできない」


ゆっくりとは絶対言えないけれど(もともと毎日筋トレやって歩くか、狼に乗って、もし探知されるかもしれない化け物を探して回ることはゆっくりではない。世界の番人だ)でもこれをずっとやれる人が、わたしと同じく面妖な存在と混ざって何かをやろうとする

はい、今日からきみは怪物ね、という定めで正気で続ける人はどんなにいるか?と思うと、逆にこれは自分の長所(ちょうしょ)で、それを、クララの性格を生かすことができると言ってもいいと思った。


「それは確かにそうだと思うのだが。」


そう言う狼さまは反論をしない。「星のワンちゃん」とかができたらわたしなんかよりずっと強いと思うのに、結構優しかったのだ。

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