闘争
「平凡の人!」
ミカエル教授は少し意外だった返答だったようで、興味を示した。
「怪物がなんでそんなことを願う?」
「わかりません。化け物のことだから、多分微妙な強さの魔法生物みたいに、小物の悪魔のような性情を持ってから出て来た邪の性質から来たものなんでしょう。でもここでおれがいいたいのは、そのものの意思より、原理です。もしそうであると、祈りはオリジンを招いて、性質に触れる。その海怪物は、レヴィアタンでありながらも『人に化ける事自体』が目的性に挟み、普通のレヴィアタンとは違う『倒されたのに亡骸が消えない』という結果を招いたと、説明ができるのではないかということです」
「だから『事件』のように甚大な被害が出た?」
「はい」
物事には方法がある。平凡の海賊に対する方法と、人に化ける微妙な魔法生物に対する方法、海怪物に対する方法が全部違うのだ。だから、『非凡の海賊事件』は対応がズレる。ズレて、致命的なことに、今は戦死者のリストにだけ残されている戦闘マギアたちの被害が出ることになった。
そして、そんな過去はミカエル教授によって「自分が一人戦うことになった理由」でもあり、「火のマギアがいつ放心して命を失うかわからない例外」として、悩みになったのだ。
「ふむ、そういうのは騎士小説の話ではないな。どこからの発想だ?」
「それは……おれは最近親しい人がいるので、その人が知ってる御伽噺や伝説などをいっぱい聞くのです。森の妖精とか、民潭がありますね」
「妖精の話。好む人が多いな、確かに。
ふむ、考えてみれば騎士小説もそうだ。『湖で剣をささげる』などのカタチで記録にも残ってる。もしくは、物語として残ってる。そんな、魔法生物なのにその行動の結果、平凡の社会に影響を与える場合は存在するということか」
「わかりません。伝説は伝説です。マギアの記録になくて、魔力の調査では見当たらない。出会う事もなくてこれすらもただおれが今作り出した適当すぎる仮説です。ですが、そんな魔法生物がいるという話が伝わってるのも事実です。
こうなんです。どの理由か、『とりあえず、平凡の悪人になりたい、生きたい』と願う事になったレヴィアタンがいた。だからそれがマギアの起源のような怪物のナニカの性質が働いて、レヴィアタンなのに、平凡のもののように消え去ってない体を持つレヴィアタンができてしまった」
そのおれの言葉に業務課のせんせいは反対する。
「いや、四属性くん、もともと魔法生物は人のように生きたいとか思ってない。そうする必要がないからだ。私たち非凡使いは、自分が干渉できるものではない限り、ふつうの人。怪我を負うと命が危ないし、病からは神様の祝福を受けている人ではない限り命の保証はない。だからマギアとして、頑丈なアルマとしても……奇跡のような行いができて怪力が出せるとしても、人の霊魂を持って神様の意思に基づいて人生を送るのだ。それが幸福なのだ。もともと、その原理から離れている海怪物などの魔法生物は歳も取らないし魔力……エーテルが適切にあるとおのれの我も治る。そんな面妖な体を持ってるから、人のような魂も持たず、だからこそ人の様に生きたいという考えもしないしそれができる能力もないんだ」
「おれもそう思います。ただそのレヴィアタンが『できないのに、なんかやろうとしてた凄く特殊な例』だということです。実際にそのものは平凡の海賊の船長として活動もして、その部下は全員処刑されたと聞きます。その『ならず者を率いた』までは、もう過去です。『事件』が起きたのも、『だから人としてずっと生きる能力が無くて限界が来た』ということで説明ができます。これは邪だから海賊としてずっといることができなくなったとも思われます」
「ふむ」
「だから、それは小物の魔法生物が人を騙すようなことを、レヴィアタンがやろうとし、しかもなぜか本当に平凡のものの性質を持つほどにそれを自ら信じていたということです」
「なぜか……怪物なのに『ふつうの生活』を願った。ならず者だけど。それがマギアの起源のように、同じレヴィアタンでも結果的に違うレヴィアタンになったということか?」
「おれはそう感じます」
「ふうん……『ふつうの生活』か」
おれの話を聞いたミカエル教授は別に面白がってもないし侮辱的だと怒ることもなくて、なぜか真剣な顔になって考えるのであった。
ミケーレ・グエラくんは自分がぜったい幸せになれない化け物だと思ってます。彼は今13歳なんです。




