水の講義
ドルイドさんと属性と名前、犯罪者などの話をしながら、今日の元素魔術・水の本や必要な道具は大体備えていたので、おれはステラ・ロサさんに挨拶をし、ドアロックを開いて家を出た。ドルイドさんはもうちょっとあとで調査に行くらしい。そして彼女は、占星術師のアストラ・ネロさんに大魔術に参加する意思を聞くとも言ったけれど、それは今日ではないかもしれないな。
フィレンツェの市内。今日も人が凄く多くて……春の日差しが強くなった感覚がした。暖かい。おれは歩きながら頭の中で、自分が知ってる火の魔術と水の魔術を復習しながら……すぐギルドにたどり着いた。
「おはようございます!」
「おはようございます」
魔力確認を終えて、門番さんを通った。今日は一応「水の堂」に行って、ガブリエル教授の授業。今日のスケジュールはもともとそれだけだった。
大魔術に申請することは昨日まで完全に未定だったからだ。だからもともとは、そのあとどっちかの堂の図書室でも行って(おれは四属性なので、こういうのは他のギルド員とはずいぶん感覚がずれていると思う)魔術理論と自分の「ムー大陸の夢」についてドルイドさんとブイオさまとの会話で改めて感じたものを確認しようと思ったけど、そういうのは今回の件が終わるまでは封印だな。お仕事ではどんなことが起きるかわからないもの。いったん貰ってからには、終わるまでそこに精一杯挑むのがマギアとして必要な素質だと、主にミカエル・グエラ教授に何回も聞いているのだ。そうです。おれは大魔術の方に集中します。
そんなおれが入ったここは、もちろん「水の堂」の講義室。実験室と違って、バケツなどは配置されてない。「お水マシーン」は繋がってるけど、普通に机と椅子が並んでいる講義室なのだ。
「おはようございます」
別に挨拶が帰って来ないのはいつものことだ。生徒は半分くらいが来ていて、適切に一番前に座った。それでは、おれは授業の時間になるまで、自分が使える魔術を整理する事にした。
ムー大陸の夢から得た「ぶにゅぶにゅの神様」とやらの方法での水の掴み。すごく上手く行って、今もその尻尾みたいななにかの感覚がわかる。そして……なんかわからないけどその人は「火」にも近い何かの属性の気がしてた。ドルイドさんはその時の記憶が凄く薄くて、「木」と「風」以外はわからず、この「夢の主体」のことは怖くて怖くて知ってることすらもぜんぶ忘れているくらいだ。そんな大変な状態らしいけど、おれがこの人として感じるのは、何万年分の寂しさだけだけどな。
ふむ、「火と水」ではない。でも凄く火と水ぽいなにかなんだ。その白い手先で、わたしは「自分の大陸」ぜんたいに広まる廻のことを握り、思う通りできるからこそ寂しさを感じたのだ。
「おはよう皆!」
ムー大陸のことを考えていたら、いつの間にかガブリエル・ブリナ教授が入って授業を始めてた。
「「おはようございます」」
「うむ、元気でよし。今はみんなそれぞれの計画で『毒ワイン解決大作戦』に参加しようとしていると思うんだ。いったん私はその大魔術の半分を支えてる人なのに、今日から少しの授業も残っている。つまり、お仕事が急に2倍だ!まあ、いつものことだけど」
[毒ワイン解決大作戦]
おれはちょっとその呼び方が面白いと思って一回心で考えた。
「諸君はだいたい調べるのをやめれなくてそれでも難しい事は仕方ないから……調べるために魔術ギルド、難しいことを学ぶために魔術ギルド。二重の理由でこの授業に参加していると思うけど、そう。完全にその毒は『マギア』の類であることが確実になった。教皇庁非凡科の調査が来たってさ。だから、私たちはその毒草の沼地に行って!水のマギアたちのこれからの全体的な生態系を汚す毒液の危機を解決しなきゃならぬ。
だから、もともと似たようなパートだったしな?今回から大魔術までの講義は『水を清くする魔術』の方になります」
「やはりか」「あ……え?」「名案です」
やはりか。生徒の中で一部は予習したものがぜんぶ無駄になったので「聞いた事と違う」と嘆いたり(どうぜんだ。みんな初耳だ)おれみたいにガブリエルせんせいの性格に慣れているヒトは今回の「作戦」でより活躍できるコツが学べて、いいことだと思ってる。もちろん「名案です」はおれだ。
「うんうん、いい悲鳴だ。授業で学んだものがすぐ実戦で実践できる。それ以上の喜びがどこにあるだろうか?そう、美味しいワイン以外にはそんなにないのだ。ではみんな、『清水』のとこ開けて」
せんせいはいつものワイン色の目を見せながら、急に内容が変わったことで絶望してる学生の方はぜんぜん気にせずに、話を続いた。
ガブリエラちゃんは「ワイン眼」でじろじろとこの物語の叙述が読めます。他のエピソードまでぜんぶ読めるまでではないです。




