影は映すもの
「今の欠片の回収の話を一回まとめたいです。だとしたら、『深紅の悪魔を復活してない』欠片……つまり『活性化』してない『非凡の隕鉄』のままの欠片は、廻のような近いところにあると、それを知ってすぐブイオさまの思うままに扱いができるということですか?」
「そうだ。別に使われて無いからそうなのだ。そして、深紅の悪魔だけではなくて、わたくしと縁が深いものならなんでもそのように欠片を高度に利用してわたくしはそれの存在がわかるということだが、わたくしの推測ではそれは深紅の悪魔しかないね」
「いったんわたしもそう思います」
夜空は広いもんな。非凡の方のわたしの種族以外も、■■■■■の存在の中でこの世界に来ているものがいるとは思いにくい。それは希望とか絶望とか願いとか呪いとかではなくて、ただ算術的確率の問題だ。
「この作戦というものは、もし『奇怪巨木』のチカラを補うものの内にわたくしのかけらがあったら、その部分を瞬間的に、誰もわからないうちに少年に映す……ということなのだ」
「移すんですね」
「いや、映す。まあ、どっちでも同じだけどな」
エンブリオ少年は何かを納得したように言う。
「それは、ブイオさまが影影の存在であるからですか?日差しがあると岩や林、建物には影が生じる。それは別に影がそうしたいと思うからなっているものではない」
「やはり天才だな。そんな感じだよ。影が『生じる』と言っても、別にその影というものは、『日差しが少ない方』だからな。日差しが少ない方に影が作られる、ではなくて、『日差しが少ない方』というものが影だからな。……これは今の知識と矛盾しないんだな?」
「はい、そういうクッソわかりやすくて頭痛い、面倒くさくてややこしい論理は、古代ギリシャの髭のおじさんたちがもう言っています。今からおよそ1500年くらいまえの話でしょう」
「それはよかった……」
どうやら平凡の、マギアではない方の学文も色んな種類があるらしい。それが今の建築や物作りや平凡の占星術の糧と基になってるということだ。別にエーテルも見えてないのに、よくもそういうものを思いつくな。
「そう。ブイオさまはただわたしのマントの緑を暗く染めるだけ。別にマントと同じものになるのではなくて、『マントに入ることさえも』……実はないらしい」
「は?そうでしたか」
「『マントの影を数える過程』がわたしのマントに入っているブイオさまらしい」
「本当にわかりませんね。それは古代ギリシャの髭のおじさんたちも多分逃げますよ」
「わたしもそう思う。数えるのがなんで影になるのか?未だにも納得できてない。たぶん550年あとも納得してないと思うんだ」
「そのくらいになると、流石に知ってくれ……」
「どうでしょうか」
わたしは「影になってるからマントが暗い」まではけっこう神秘的な、「魔法も奇跡もあるんだよ」ぽいので、ギリギリ「森の姫様」の解釈にあうイメージなので理解も出来て中々気持ちもいいものなんだが……でも「数える」はマジでわからん。1462年生まれのクララちゃんの心ではもちろん、深紅の悪魔としての思考でさえも、もしかするとギリギリその理解の領域を超えてるかも知れないのだ。その「そこを影だと想定するからそこは影だとする」の原理は謎々のままだ。
「わたくしには逆に自分の手足のようなものなので、おまえらにどう説明するとちょっと『理学』の理解に近づくかわからないのだ。まあ、常識を破らない範囲でね」
「そうですね……」
常識は常識として大事なものだけど、わたしはそれと共にブイオさまの部下である「座標の衛星」なので、ブイオさまの「狼の星」の……影影の狼の原理を理解する事は重要だ。でも、わからないんだな。
「まあ、おれはなんとか納得はしました。理解できないとしても納得しました。『信号』がない限り欠片が直接使われているわけではない。欠片が本当にあったら、おれがそれを受け入れます。そしてもしおれがその場になくてできないと、ブイオさまが回収します。こうなるとおれに映すことはできないんですね」
「そう。それはわたくしの『欠片を集める』目的性に反する。きみに任せるのはぎりぎりセーフだ」
ブイオさまに結合してるものを割って作り出す事はわたしの考えでも確かに拒否感があるものだ。そういうのが型物理性のデメリットというもの。でも、この少年にすぐ渡すことは、エンブリオくんがこれからのかけらの探索の相棒のようなものにもなるし、彼が別に永生するのでもないので、許容範囲だということだ。
「はい。そして、どっちでもなかった場合、『夜空のもの』の探索や問題解決としてギルドの顔に利得になります。普通にこれはおれが『四属性をマスターして生き残る』ことのためです」
「うん。結局ネロ様がいかないとパーになる事だが、いったんわたしもこれは好機だと思う様になった」




