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美(うつくしさ)

そして……わたしはエンブリオくんにわたしが今日会えた(なぞ)(くさ)について話をした。本当に小さい草だったが、先端(せんたん)にぶにゅぶにゅした粘液が見えて、それが人のような口を作っていたと。話して動いたと。

エンブリオ少年は少し引いた表情をしていた。


「不気味ですね。とても不思議な(くさ)だ」


「そう。そう言うのは初めてだった。わたしは『深紅の悪魔』としてこの世界で75000年の経験を持つ人だ。そのだいたいの時間は死んだ状態だったが、『賢者の国』で古代魔術『木』を学んでいる。その知識で、名前と植生が一致しないだけで、この世界の草も木もそれ以外も、様々な種類をいっぱい記憶(きおく)しているのだ。でも、今日見たように『動いて思う』ものはなかった」


「そうですか……」


「もともと非凡(エキストラ・オーディナリー)のものなんだが。それも『ドラゴン』みたいなものを考えると、平凡の、それと関連する生きものの性質を持つと聞く。でも、平凡の生き物……草木に比べると、それは『植物の性質』と『動物の行動』を超えて、人のような思考を見せたのだ。自分がその『本体』とやらに比べて小さい存在で、それでも行動も心も単純に従うだけのものではない。『自分の性能が満足ではない』という思いまで持っていた。うん。やはりその個体というものは、姿が変だという事で、この世界のものではないものの影響を受けたと言っても、妖精(ようせい)さんだったんだ」


草本(そうほん)に……口だけが付いている……妖精さん……?」


少年はわたしの定義に少しショックだったようだ。確かに、騎士小説には主人公に伝説の剣を渡す綺麗な妖精さんなどがめっちゃ出ると聞くので、それはオタクとして耐えきれない事かも知れねえ。

だから、わたしは彼の好みのものを少し連想させて気まずさを(ほぐ)そうとした。その好みのものというのは、もちろんこのステラ・ロサさんだ。


「まあ、きみが好きで好きで仕方がないこのわたしも、『深紅の悪魔』の部分は顔も無くて手はハサミだったぞ」


「それはそうでした」


そして、彼はわたし「を」基準でものごとの(うつく)しさというのを感じて見ているようなものらしいので、すぐなんでもないような顔をした。

その時、焦った声が聞こえる。


「いやいやいや、気持ち悪いものはちゃんと気持ち悪さを感じるのも大事だぞ」


「ブイオさま」


「それは判断基準があいまいになることだ」


ああ……確かにそうなるか。


「そうですね。わたしの考えが甘かったのです」


間違えた。社会で正気を保つためには、基準をちゃんと立たせなきゃいけない。この後もし、少年が魔術ギルドのお仕事でそんな「非凡の毒草狩り」などをやることになったとしよう。そこでわたしの今の話の影響で、彼が「この草、愛嬌があるかも知れないじゃないですか」になると、それは集団(しゅうだん)構成員(こうせいいん)として変なことだ。変なことは、まあ、いつも良くないまでではないとしても、不利な状況が多いのだ。まるで型物理性(アイディア・ヒストリア)のデメリットのように、圧力になるのだ。しかも、「愛嬌があるから、やりたくありません」になるとなおさらだ。


「ちゃんと気持ち悪いと思った方がいいのですか?」


「そうだな。わたし的に、わたしの非凡の半分と平凡の半分としては、きみに愛されたいという気持ちがあるから少し気持ちが複雑な事でもあるけど、それは大事な事だ。

夜空(よぞら)からのもの、ぶにゅぶにゅと、その影響のものには警戒心を持った方がいいな。そういうのは、伝説に出る非凡の存在に対する心構えみたいなものだから。堅実で、現代の『ハンター』などもずっとそうだからだ」


「ふむ」


「先は忘れてよ。わたしのこともそうだ。『深紅の悪魔』のわたしのこともそうだった。もしきみがわたしが居ないところで深紅の悪魔に襲われて、『でもドルイドさんの半分の同族なんだな』と判断を間違えるとか大人しくやられることなどは、わたしは望まない」


「まあ、美の基準の話だったと思いますが。おれはその警戒心は確かに持っていると思います」


「ならよかった」


「賊は同じ人だけど怖いでしょう。基本はそんな感覚です。でも、お二方の話は分かった気がします。そこで、普通に面妖なものには気を付けます」


「うん、それくらいでは充分だろう」


ブイオさまはそう言った。


「でも、その『毒草』が人と会話ができること自体は事実ではないですか。ドルイドさんと普通に話せたじゃないですか。それは、ただの気持ち悪いものとは違ったかもしれない」


「それは……そうだけど。それはただわたしが木属性(レグノ)のエーテルを扱うものだったから話しただけだ。もともとはその個体(こたい)は喋る気もなかったと思う。わたしがこの『花びら』で調べてなかったら、ただ『へ~なんだこの草は?』と(ちぎ)られても、大人しく契られたと思うのだ。草だから」


「そうですか」


「わたしは魔力のお仕事でこの魔術ギルドに登録している人ではないから、この事は『経験した事もない』事だ。それでも君に知らせた方がいいと思った」


「はい、おれのことを信じてくれて本当に心が強いです」


「ふむ」


「だから、おれがもしそんな経験をしても、普通の人として対処した方がいいという事ですね」


「そそ」


それで、いったん今日出会った草の話は終わりだった。


「それでですが、ドルイドさん」


「なに」


「その『奇怪巨木』の話です。ギルドの調査隊から連絡が来たらしくて。毒の問題を解決するために、行くらしいですよ。ウリエル教授が」


「なにー!!」

今日の話は『輪るピングドラム』から少し連想しました。

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