よくわからない草
そこに触れたのは、直観的にこの世界のものではなくて、わたしの「深紅の悪魔の部分」みたいな、異質的なものであることがわかった。
雑草なのに、その葉っぱは喋ていたのだ。
「何者だ!どうやら木属性のエーテルの才があるものらしいが、貴様、凡人ではあるまいな」
「なんだこれは……」
明らかに見たことがない汁を出す先端、その先端から口が生えて喋っている。目は付いてないらしい。
「貴様こそなにものかを訊いてる!」
「わたしはフィレンツェの薬師のステラ・ロサだ」
わたしは今、いったん表面的な理由では「魔術ギルドの相談役、占星術師のアストラ・ネロの話し相手兼担当薬師」として、この周辺の薬草を調査している最中なので、その表面の呼称を出す事にした。
「薬師?ドルイドか?」
「ドルイドを知っている草なんだな。そう、ドルイドと関係がある薬師だ」
「そうか。ドルイドは神秘的な呪術を持つ。その中では今のように私に触れれるものもいるか。新世代だな」
「わたしは並みのドルイドたちと同じく、御伽噺や伝説などが好きだが、このような草のことは聞いた事がない。てめえは妖精さんか?」
どうもそうは見えなかったけど、わたしはいったん自分の常識に基づいて草に質問した。
「妖精さん?そうだな。私は森の神秘的な森の妖精さんみたいなものなのだ」
「そうか」
「私に触れれるものがいるとは思ってもしなかったけど、貴様のその呪術はドルイドの新しい呪術なのか?」
それは桜のドルイドとして別に嘘でもなかったので、わたしは一部は素直に答えることにした。
「そう、わたしは子供の頃見てたドルイドのばあちゃんの影響でドルイドのことに憧れて、ものを触って思うわたしなりの方法を作ったことがある。それからあれこれあって……今のような草を調べる方法を身に付けることになった。別に魔術師たちに比べて直接的な利得が得れる術ではないとしても、薬師としては有利な術だと考えてる」
「ほう」
わたしはこの草がいつ目が付くかわからなかったので、ブイオさまがわたしのマントに入ることを願った。その心の言葉に答えて、ブイオさまは静かに影の球になって、わたしのマントを暗く染める。
「森の妖精さんの話はけっこう知ってるのだが、きみはわたしの常識に基づくとそんなに可愛らしいカタチではないな。もちろん世界は広いから様々な妖精さんがいると思うのだが、なんか具合でも悪かったりするか?」
「失礼か丁寧かわからないものだ。うむ、答えよう。私はそのお偉い勉強熱心の妖精さんの一部であり全てである、そんな感じの草だ。少しずつ移動しながら、神秘的な森をもっと広める方法はないか調べるのが私のこの草としての定めだ」
「ほうほう」
「だから具合が悪かったりするのではないが、移動のスピードは非常に遅くて、種の改善が必要だとは個体としてちょっと考えてる」
「個体?」
「ああ。私はその偉い妖精さんから、木の枝や葉っぱみたいなものだ。そして、その葉っぱを人は『その木』とは言わない。でも、取られた葉っぱになると、その葉っぱ一枚だ。そんな感じの1つを個体だと呼ぶ」
「そうか。つまり一部だけど人みたいなものなんだな。妖精さんも色んな種類がいるもんだ」
「そう、これからもいっぱい種類を増やしていきたいと思ってる」
「へえ」
「で、貴様はこの辺で薬師として生きているものなのか?」
「そうだ。この辺に人たちの大きい『フィレンツェ』という国があって。わたしはそこのほぼよそ者なんだ。でも、今はちょっとフィレンツェのそれっぽい役割を得て、それを大事にしたいと思っているところだ。植物みたいに例えると、種として新しい森でやっと根を出してみようと思う感じだ」
「そか」
「だからドルイドのばあちゃんからも薬草などの話はいっぱい聞いていたが、専門の情報が必要だと思った。だからフィレンツェの薬師の本を参考して、この周辺の植生を確認していたのだ。そして今に至る。きみを触る事になって、あまりにも平凡の草木ではないから驚いた。改めて失礼を詫びる」
「丁寧でよし」
その草は、わたしの対応が気に入った様で、草の先端からよくわからない液体を動きながら、穏やかな風にニヤリと微笑んだ。ちょっと愛嬌があるかも知れない。
本当に六系というものは呑気な「全部」なんだな、という感覚をあげたいと思ってます。




