反例
「それが、今の魔術ギルドと凄く大きい関係があるものです」
「ふむ」
少年の話では、平凡の海賊のフリをしたレヴィアタンがいたようだ。捕まえようとするものが来たら、海に戻って暴れ出したと。そのものによって、魔術ギルドは甚大な被害を負った。でも、厳しい戦いの末、やっとそれを撲滅することができたという事だった。
「そのレヴィアタンは、今もどこかに保管されているという噂があるのです。つまり、消えてません」
「人間に化ける海怪物???倒されると消える性質なのに消えてない個体?そういうのができるのか」
「わかりません。昔から人の姿に化ける怪物の話はおれが知るものでも多くありましたが、マギアの記録ではレヴィアタンがそんな行動を見せたのは初めてなんです」
「へえ」
「そして、その時期酷かった黒死病の蔓延とその事件が重なった。魔術ギルドは凄く人手不足になり、存続の危機を迎えたのです」
「うん、そのちょっとあと、今のギルド長、ラファエル・ムジカさまがギルドを今の姿にしたと言ったな」
「はい、魔術ギルドがすぐなくなるほどの被害ではなかったんですが、残ったせんせいたちの魔力の総合では、新しく大きい魔力のお仕事に全権を持って進むことができないし、人手が少なくなるとより悪化する悪循環に入る。より頻繁になになに戦争に参加する事になって、戦闘魔術が使えるマギアはどんどん減った。そのあと10年くらいが経って、ラファエルギルド長がギルドに入ったのです」
「うん。そこは彼女と非常に親しい関係のアストラ・ネロ様が少し話して下さった。彼女は明らかにミカエル教授より後で入ったようだ」
「そうでしたか」
「今の彼女がたぶん17歳で、ミカエル教授が13歳なんだな。なら今まで何年経ってないけど、今のように魔術ギルドが魔力のお仕事を握る事になったのが凄く昔の事だと思ったよ。わたしも結構マギアの変革期を生きていたのに、ぜんぜんわからなかった……」
まあ、隠れ里に住む病者にはどうぜんのことだったが、ドルイドのばあちゃんの話からそんなことはわからなかった。
「そうなりますね。ドルイドさんもおれも幼いから、まるで何世代前から魔術の社会がこうなったと感じてますが、実はここでカタチを維持されていたのは事実だけど、魔術ギルドがまた権威を戻して今の独占状態を安定的に維持した時からは何年経ってません」
「ふむふむ」
「これも結局、その『レヴィアタンなのにあきらかに規格外の強さを持ち、常識外れの行動パターンを見せた個体』の変数が大きかったと思います。黒死病もありますけど」
「そうね。でも、もともと怪物というものは急に現れるもので、海怪物は得体を知れないものだ。なら、そんなに「規格と常識」はなかったのではないか」
「珍しいのです。それが、その個体はもともとは平凡の海賊としての海賊団を治めていたのです。おかしくないですか?」
「確かに」
非凡のものは、自分の器が安定でやりたいことが定まっていると、その寿命がめちゃすこ長かったりもするんだが、その反面、社会とはそんなに難しい関係を作りたくないのが普通の筈だ。もちろん非凡は普通に非凡だから普通もなにもないが、薬師として仕事を始めれる様に見えるわたしや、物作りを仕事にしている森のおじさん、アルベルト氏を見ても、適切さを大事にする。その、忘れたがアルベルト氏が言ったのだ。「仕事をやりすぎると業界が変になる」まさにその通りだが、海賊とは。しかも、その部下たちをいっぱい総括するとは。
社会と円滑な関係を持つのでもなくて、ドラゴンみたいに人と完全に敵対するのでもない。その船員たちは人間だろう?
「船員の中には他の海怪物もいたと聞きます。それは最小一匹は逃げたのです」
「ありゃりゃ」
「他はだいたい平凡の海賊だったので、おれが知る限り全員処刑されました」
「うむ」
「おれはその『非凡の海賊』の個体がそんなに変な行動をしたのも、なにかの印が作用してたのではないか、という思いがして仕方がありません」
「印か」
印は他の術師が使った技によって、火傷が残るとか泥が付くとかそんな感じだ。魔術的に付けて、魔術的に塗られる。その影響が消えない以上、足首の鎖みたいに、変化は戻らない。
その印がなくなるとわからないが。
「レヴィアタンは基本的に謎々なので、今の理論は別にトカゲの様に頻繁に観察してドラゴンの事を研究したことみたいなものではなくて、戦った非凡の使い手の記録に基づいたものです。でも、そういう情報とその海賊はあまりにも特質が違う」
「ぶにゅぶにゅの神様ではないんだろうな」




