チカラを込める事
「ならあれが聞きたいんだ、エンブリオ少年」
「なにが聞きたいんですか」
「『騎士小説』でいっぱいチカラを出す人たちの方法。非凡の方」
「それ、今言っちゃうとアストラ・ネロさんとの約束時間に遅れちゃいますよ」
どんだけ話す気だ。
「まあ、少しだけいいんだ。剣を振る人、矛を刺す人、弓を引く人がいる筈だから。そういうのを簡単に頼む」
後でもっと聞こう。少年はいっぱい喋れないのは残念そうだったけど、それでも好きな話であった。
「そうですね。一旦、エーテルの適性が必要です。日々の平凡の鍛錬も大事です。そして、『ハンター制度』のことを言った時と同じく、非凡の方法を学びます。これを闘技、アルス・アルマと言います。マギアに対応しますね」
「平凡の兵士の超強いバージョンね」
「はい、我流は非常に遅れて、人に学んだ方がいいです。自分に合ってるエーテルを、方向と目的性で廻に使うマギアの魔術のカタチではなくて、廻を感じ取って自分の体や武具に宿してチカラを発揮します。こういうエーテルはまた、気力とも言います。魔力と別に変りませんが、働き方が非常に違うからです」
「勢いね」
「以前ドルイドさんの『深紅の悪魔』に対する心構えがあまりマギアぽくないと言ったのはこのことです。ドルイドさんの体にブイオさまのエーテルが流れていることもこれと似ていると言えるでしょう」
「そうだったのか。ならわたしめっちゃ最強ではないか」
そこでブイオさまが言った。
「いや、■■■はぎりぎり平凡の人より強いくらいだ。それをベースにしてるステラ・ロサさんの体にどんだけ星のエーテルが流れるとしても、それは非凡の方法を使う強い人の子には敵わないと思う」
「そうなんですか……」
「それも普通の『悪魔』の立場なら、見えないエーテルを使って『そもそもエーテルに触れること』を威圧して縛るのけどな」
「おれもそれやられました」
「そう、それで一対一の状況ではかんたんに勝てるけど、おまえはそういうの使えないだろう。使わないのか。まあ、どっちでも」
「どっちも同じです。そしてわたしのルビーの杖はほぼ深紅の悪魔にだけ向けるものです」
「そうなんだな」
「ほぼですか」
「そうだ。自分の身を守る」
わたしは基本的に狩りをする必要もなくてちゃんとドルイドや薬師として働く気だから武力に頼ることは普段あまりないと思うけど、この世界、どんなことがあるかわからないのだ。この杖は護身のためである。
「なんか『深紅の悪魔だけを狩ることを誓ってチカラを引き出す』みたいなものかと思いました」
「そういう事ができるのか。まさに御伽噺だな」
「非凡のことはだいたいそんなもんです」
やはり都合好い時だけ「非凡の現実の話」と「非凡の夢話」が便利に使われる気がする……たぶんこれが平凡の中で非凡として生きる、魔術ギルドの生存戦略なんだな。
「ふむふむ。そんな条件は……かかってない。そうですね?」
わたしはそれでもこのお星さまが自分に不利な事項をまだ隠しているものがあるか、少し心配になってブイオさまに問えた。折り畳んでいた暗いマントはその質問に答える。
「さあな。以前も言った通り、わたくしがくららちゃんに器の名前を付与した時、『星のワンちゃん』を制御するための『命令』を付けようとしたんだけど、それが完全に行方不明になったままなのだ。その一部が残っていると、似ているような仕組みが働くかもしれない」
「なに⁉」
「それはまたどういうことですか?」
少年に騎士の話を聞こうとしたはずが、ぜんぜん自分の話に戻っていた。
「それはね、わたしは『星のワンちゃん』という魔法生物になるところだった。だけど、それは非常に危険なもので、首輪の役割をする物語性を付けたらしい。でも、それがなくなった」
「それは邪悪ですか?」
「別に善悪はないけど『点』的に気に入らないものは噛む」
「それはなんですか」
「ものの長さを当てたり、いくら待てばいいのか当てたり、数を加えて引く事などが上手い物語性だ」
「それは普通に頭がいいことではないですか?」
そういうのはわたしも結構向いている方である。
「わたくしはそういうのが非凡レベルで得意なお星さまだ。そしてワンちゃんも同じくそういうのが好き。曲がったものを嫌う性質を持っているから、なんでも噛むとこの星の様々な生命に失礼だ。だから、わたくしの命令には『欠片を集めることに集中すること』という事項が含まれている。たぶん」
「たぶんと言った」
「そしてその部分がもしおまえにも適用されているとしたら、お前がチカラを出して元気よく動けるのは『欠片を追う時だけ』になるかも知れないんだ」
「それは問題ないです。わたし、めっちゃ真剣なんで。『座標の衛星』頑張るんで。ステラ・ロサさんとして歩むすべての道は欠片を探すための旅だ。振るうすべての凛々しさも夢の国に至るための舞なんです」
「ただそれっぽいことを言いたいだけだろう」
「いやぜんぜん」
「つまり、ドルイドさんは自分が何をやってもぜんぶブイオさまの為になるから逆に好きに生きるということではないですか」
「もちろんだ」
「勝手だ……まあ、もしそうであればどっちも問題はない。今おまえが振れるチカラはおまえのものだ」




