術を飛ばす方法
「とりあえず、ドルイドさんの『花びら』を遠くまで飛ばす方法ですね。これは、おれは木の才がないから本当にわかる術がないです。ドルイドさんが風のマギアでもあると、わかりませんが……今のところ、貴女が言った通り腕力で振るのがいちばんかも知れません」
「そうなんだよ」
わたしはやはり自分の考えが間違ってなかったことを知ってちょっと気持ちが良くなった。
深紅の悪魔の「見えないエーテル」が届かない範囲から、自分の「花びら」をいっぱい飛ばす。それにあたったやつの元気をちょっと吸う。そして頭を殴る。先制攻撃、必勝。完璧だ。
「大きく見ると、この子が体を動いて杖を振ることも、一応わたくしの星のエーテルの勢いが持つ熱量でやってるのだから、体を動くことは火の魔術を飛ばすこととあまり変わらない」
そこでブイオさまが急に適当すぎる事を言った。わたしはすぐ文句を言った。
「いや、大きく見すぎでしょう。それは論理の飛躍です。以前『火』だ『炎』だ『焔』だいっぱい言ったことの延長線上にある話なのはわかりますが、そう言ってだれがわかりますか」
「どういうことですか?」
「ほら」
これは神話生物の理系の話。動いて頑張ること自体が、生命力というカタチの火みたいなもので、それがどうやら本当の仕組みも火みたいなものだということだ。だからその行動原理は「焔」なんだ。わからなさすぎる。
ブイオさまは答える。
「この星の生き物にはそれが同然だからだ。実際みんなお日様の恩恵を毎日浴びて生きるじゃないか。日差しがないと朝は動けない蛇や蜥蜴ではないとしても、日が無いと困る。生きれないだろう」
「ふむ」
その言葉で、エンブリオ少年はちょっと考え始めた。
「ブイオさま、なんかやばい知識ではないでしょうね」
「それは、まあ。少年は『ムーの最悪』の夢を見てるから、しかも『完全な記憶』だからそれを忘れることもない。たぶんこの世界でそれよりやばい知識はないよ。これくらいは大丈夫だ」
それはそうだった。
「なら安心です。説明してください」
「やれやれだ。いいか、日差しを貰うと体が暖まるだろう。そして朝が昼になりながら、風もどんどん寒くなくなるだろう」
「そうですね」
わたしはずっと床で喋ってるブイオさまを見て、ちょっと無いな、と思った。
「はいはいはい、ちょっといいでしょうか」
「なんだ」
自分のマントを折りたたんで、少年のベッドの上に縦に乗せた。これで3人みたいになった。
知らない人が見たらただ布団のもう一枚として被っていたマントを整頓してないように見えるだろうけど、ここには確かに狼の星が宿ってる。
「確かに視線が迷わないです」
ブイオさまも悪くないようだった。
「ふむ。なるほど。なら続く。日差しを貰うと、草木が育つんだ。そしてこの全般がぜんぶエーテルみたいなもので、ぜんぶ火みたいなものだ」
「それはなんとなくわかります」
少年も同意した。
「そうですね。チカラの源になる」
「平凡の生き物は日差しと草木と……それを食った生き物をまた食って生きる。つまり、これ全部が太陽の火のエーテルを使って回るようになってる」
「だいたいわかりますが、それで『体を動かす事』が火のエーテルを使ってるものにはならないでしょう。平凡の体は急に手から炎が出たりしません」
「出ると大火事だ。まあ、太陽の恩恵だ言ってもただ平凡の体の動きだな。でも、その熱気は全ては結局回り回ってそういう過程で貰ってるものなので、『元素魔術・火』の様に洗練された形でなってるものとは違うとしても、同じく熱を利用して飛ばす行為ではあるという事を言いたかった」
「いっぱい動くと体も暖まりますから、まあ、多少は」
「ブイオさま、なら推進力を出すと言うものは結局火のような勢いだということになります。非凡の方法が使える騎士のような人を思うと、確かにそれは正しいかも知れない。でも、マギアは種類によって火以外にも推進力みたいなものを持つはずです」
そして、少年のその言葉をブイオさまは否定しなかった。
「マギアだからな。見て思って珍しいことをさせる」
結局のところ、別に「花びら突風(仮)」の推進力を得るためのヒントにはならなかった。
「わたしがより元気よく振ればいいということですね」
「そうだな」




