紙は残るんだ
「本を書きたいんですか?」
少年はちょっと好奇心を見せながらわたしに問う。
「そうね。わたしなりの『古代魔術・木』を残したいと思う。今は『白神女』さんはそれを残したいとぜんぜん思ってないらしいから」
「古代魔術ですか」
「きみも『灰色の呪い』にかかった時に見るようになったムーの夢があるだろう?わたしはきみがどこからどこまで目にしているのか本当に具体的なところまではわからないが、いちおう『わたしを構成している深紅の悪魔の部分』はその夢の時の事件『ムーの最悪』に登場する本人だからね。そしてその悪魔はなぜか桜のドルイドのわたし以外は生き返らない気がするんだよな。ステラ・ロサさんがやらないと誰がやる、だよ。もったいないんだ」
「そうですか?」
自分の「トリプル亡霊」の性質を考えてるうちにちょっと気付いた。わたしは「灰色の呪い」の時に唯一意識を持つ深紅の悪魔だった。というか、今もほぼそうだ。つまり、「深紅の悪魔として」復活してない。死んでるままだ。でも、クララとして復活しているのも確かで……
「わたしは『深紅の悪魔としては』勢いが足りないよ。『焔』が弱弱しい。しかも、粉々になっても何気に意識を持っているということは、逆に言うとそんなに行動と思いが絶実ではない面もあると思うんだ。つまり、ブイオさまの欠片に接したとしても、多分他の奴が生えると思うんだ。意識を持っているわたしは、別に状況の変化を欲しんでないから」
「でも、意識を持ってる分、優先順位が高いのではないですか?マギアは心の仕事なんです」
「わたしの種族はそれが人々の体と本能みたいなものよ。逆に、勢いが足りないのは心で負けるということにもなる。あまり自分自身を悪く言いたくないけどね。それも自分の性質だから」
「おれもそんな性質です。まあ、まとめましょう。なら、今も『流れ星』の影響で世界にたくさんの深紅の悪魔が復活していても、その中でドルイドさんの一部である深紅の悪魔はいないということですか?」
「わたしはそう感じるよ。違うかもしれないけど、今わたしが行動している動力は『森の姫様』という夢だ。そして、それはクララとしての両親を見て学んだもので、ドルイドのばあちゃんの話を聞いて膨らんだ物語だ。『悪魔』としてはわたしはただ、意識があるだけ」
神話的事件「ムーの最悪」の時になったと思われる深紅の悪魔の粉々は、どこの灰色の呪いにもだいたい同じく混ざってるように思える。少しの偏差はあるとしてもだ。これは、どこの感染者もわたしの戯言を喋ることになり、どこの死者の感染者も歩きながらわたしが考えるということになるけど。(中々主張が強い粉だ)とりあえず、もうなんかやってるわたしに比べて、他の深紅の悪魔はより欲望が強いのだ。だから体を取り戻せるチャンスを競って、「復活」を逃したくないと本能を発揮するだろう。今のわたしがわたしを着て動いているのは、わたしが作っていた「クララちゃんのマニュアル」の通りにわたしがわたしを考えて動いているからだ。
「まあ、逆に言うとドルイドさんだけではなく、貴女である深紅の悪魔は『灰色の呪い』のカタチで全世界に居ても、別に復活したカタチで討伐してしまうこともないということですね。それはそれで悪い事ではないかも知れません」
「そう。わたしもそう思う。それで、古代魔術を学んだ奴、わたし一人ね。もちろん平凡のものを使って学びを残したいと思う奴、それもステラ・ロサさん一人だ。わたしはこれからの長い旅の一つの目標として、本を作りたいと思ったよ」
「それは素敵なことだと思います。まあ、人生は長いし、機会があると思いますが」
「ならいいね」
わたしは右手の掌を振って、マントの「花びら」を全部回収して、軽く自分の周りに回せた。この、わたしの廻を飛べることが精一杯なわたしとして、コツを後世に残そうとちょっと思ったんだ。
「あ、そう言えば『花びらを使ってより有効に戦う方法』についていいましたね」
「言ったっけ。以前ブイオさまと話した覚えはあるけど、たぶんきみにも言ったんだな」
「『腕力で花びらの球を飛ばして当てる』などの方法を聞きました」
「うん、言ってるね。それがわたしの必殺技『花びら突風(仮)』だ。『炎矢』などと違って木の推進力は腕力しかないと思ったよ」
今は昼になってるから緑があるところはわたしの味方だと言っても過言ではないが、どこでも草木があるわけでもないし、基本的に「深紅の悪魔」の連中は暗い隅っこを好むのだ。あまり緑の恩恵を貰えるとは思えない。
「まあ……そうですね。それ自体が勢いを持って飛ぶには火以上のものはないとおれも思ってます」
「そうなんだな」
だから少年が尊敬している火の大魔術師さんが、たぶん今世界で一番強い人だと思う。




