水のマギアのネロ家
少年とわたしは夜までゆっくり休みを取っていた。少年曰くわたしの相談日程はもう話がなっているから門番を通って案内されるといいらしいが、べつに一緒に行かないのにエンブリオ少年自分が緊張してて、勉強ができてないらしい。
「まあ、明日は休みなんです」
「そうなんだ」
わたしはその占星術師のせんせいとは話が通るんじゃないか、名前も同じ星じゃないか、とかバカみたいな考えで、ずっとなんも考えてないゆっくり状態だった。穏やかな気分だった。
それよりは、これからは自分の「薬師」という身分の為に薬房を手配して人々と付き合って素材を任せなきゃいけない……うーわー。それがよっぽど不安だった。
「アストラ・ネロさんは、もともとは水のマギアです」
「うん?」
そしてエンブリオ少年は急に、今から会うであろう占星術師さんの話をした。
「ネロ家が居て、そうとう名前がある水のマギアの家系だったらしいです」
「そうか。たぶんガブリエラちゃんの『ブリナ』より偉い家なんだな」
「はい。でも、なぜか彼女は『水の堂の元老』ではなくて、中央堂のギルド長の顧問役です。おれはせんせいたちの関係の深い部分まではぜんぜんわかりませんが、水のマギアの他の人たちも別にアストラせんせいを先輩として重く思ってない。『幻想魔術』と同じ、属性を問わない『非凡の占星術』の名誉教授としてギルドに努めていると聞きました」
「へえ」
「おれはガブリエル教授が別に苦手ではなくて、あえていうと凄く尊敬してる方です。天才です。なんか新技も作るし。でも、彼女は普通に政治が上手いです。どうやら『海怪物』の事件でヨーロッパのマギアの構造が変わり、崩壊寸前のギルドをラファエルギルド長を中心に立て直して、歳であるアストラさんは引退に近い感じに流れたのではないか。そして今の『水の堂』の体制を固めるために、あえてその状態を変わらない」
「ガブリエル・ブリナさんはなんか色んな政治力がある人だったな。人の心の言葉も読めるし。多分それが『ギルドと水の堂の利益』に善だと判断して自分が長として納めているのだろう。そして」
「そして?」
「もともと大魔術師は一番強い人では無いか。占星術のせんせいがやり合いで負けて追われた感じで言うのは少し思い込みかも知れない」
「あ、そうですね、勘違いさせてすみません。そんな意図はなかったんです。おれはただアストラさんが水のマギアの名家だった『ネロ』なのに、ぜんぜん水のマギアとしては言われないのは何故だろうか、それがちょっと気になったんです」
「それは確かに」
むしろそんな縁はガブリエラちゃんが持ちたいと思うのが自然だ。
「もちろんこういうのはただの前の知識で、本人に言っちゃだめですね」
「うん、凄く失礼だ。そんなことはわたしたちみたいな連中はだいたい言わない」
「そうですね」
だから話がいつも褒めと教えと教訓が混ざった雑談配信みたいななにかになってしまうのが問題だけど。わたしはそれがギスギスよりはマシだと断言したい。
「ふん、見よう。アストラ・ネロさんはラファエラさんの恩人だと言ったな」
「はい、ラファエルギルド長の化け物みたいな能力のおかげだったけど、もともとラファエルギルド長がチカラを振る舞えるようにそのモトイを整えたのがアストラせんせいだったらしいです」
「ほ―それは凄い事だ」
「まあ、非凡の占星術を一番極めてる本人だから、その意思決定を否定する事は他のマギアたちにもむずかしい。そして教皇庁と国と他国と平凡の軍隊と学者。ギルドは外部の色んな利害関係が関わっているから、どっちが潰していただくこともなく、魔術ギルドは再建された」
「そうなんだ。やはりラファエル氏は声がデカいだけではなく、実際影響力も大きくて、それが今の『ギルド』所属のマギアたちぜんぶにも届くような凄いものだ。わたしはラファエルさん好きだよ」
彼女は色んな変な友たちがいると聞いたが、たぶんギルドの全権を任されて、今の「4の堂」を安定させる前までは自分を経由した外からのつながりに頼って仕事をまとめることもあったのではないだろうか。
「ギルド長が率いる時からいたのはミカエル教授だけです。彼はおれたちよりもずっと前から無数の人を焼きました」
「そうなんだ」




