桜のドルイドの物語性
大きい狼の背に乗っていたら、いつも筋トレを行ってる川辺まで戻った。
こうして少しずつ自分の探索範囲を広めるのだ。わたしは地図も無い。方向も曖昧だ。ただ山の方向と木の位置と石を質感を覚えて、通る風の音と鳥の種類を聞く。知っていく道は自分のものだ。自分の頭に入れてカタチになると、そこは知らなかった時とは比べものにならないくらい、何も考えてなくても素早く動ける縄張りになる。自分の土地になる。
これはわたしが一応「深紅の悪魔」として完全記憶能力を持ってるからだ。少年の、「一回見たものがずっと見れる」類ではなくて、わたしは「一度動いて感じ取れてるものは同じく遂行できる」部類のものを持っているのだ。
林を出るようになったら、ブイオさまはわたしに問う。
「ここからは歩くか?まだ乗るか?先も言ったけど、わたくしは認識妨害を上げたら別に人が見ても問題はないと思うよ」
ブイオさまはせっかく狼の姿になったから、多少気に乗っているようだった。認識妨害。そういう能力があったから、わたしはエンブリオ少年を助けた時に、よくもそんなに人が多いフィレンツェの街を通って少年を家まで運べたということだ。そのわたしたちを見ても、人たちは「歩いているように」感じれたという事だ。
今考えるとそれは霊のエーテルの物語性だね。
「交代しましょう。まだ夕方まで時間が余るし、わたしは『普通の薬師』として行動するのが大事だと思います。普段から自分の足で動いてないと、いざという時に判断が鈍る。そして、ブイオさまもその物語性を張る事はいちおう気が散るのでしょう」
「まあ、それはそうだ。そして、その方がおまえの日々の鍛錬になると言うならば」
狼は止まって、わたしが背から降りた瞬間、影の球に変化してまたマントをダークグリーンに染める。
「ブイオさま、ヒストリカル・アイデアを出すと言うことはどんな感覚ですか?」
わたしは林を出てフィレンツェ城に戻る道を行った。
「ふうん、そうだな。なんかおまえが少年と『水の大魔術師』のことを話した時にもう言っていたあれだ。その神話生物理学の方の説明が知りたいんだな」
「神話生物理学…そうです」
ぶにゅぶにゅの教えだ。
「そ。基本は知ってる通りだ。『話になるものを主張する』
ステラ・ロサさんに例えると、自分が薬師だと周りに言いながらも、『でもあの人、なんか持ってる人だな』と感じさせることだ。綺麗に見える白い髪と鮮明な服などがステラ・ロサさんの物語性を強めるんだ。『ああ、その人ね。ぼくも一回見たことがあるけど神秘的だよねあれこれ』と言ってその人物の印象が残る。そのいっぱいの印象でできている疎い『型物理性』が作られる。それから、ちょっとお借りできる性質があるのだ。それを自分が認識してエーテルの非凡の言葉のカタチに引き出して握るのが物語性。慣れると自分が持つ様々な術に性質だけを付けて出すなどのズルいこともできるんだ」
「わたしの型物理性か。ぶにゅぶにゅ理学は本当にわからないものだらけです」
「はは。おまえも深紅の悪魔として自然に知ってるものも多い筈だ。『見えないエーテル』『知性体をメディアセンターにする』なども似たようなものだよ。ただ今ステラ・ロサとして受け入れてないものは、この社会を生きるためにそれが危険だからだ。クララちゃんとしての常識で適切だという意味で、それもまた『型物理性』を生きるために大事なものだ」
「そうですね。わたしは実際自分の『深紅の悪魔』の部分がどのように夜空を動いていたか理解していませんね。『エーテルを飛ぶこと』は感じれるけど、それくらい。
今のわたしは見た目も体も身分も人だから。聞いても流されて、頭に入らないのです。でも、一旦間接的には知っておくのもいい事だと思ったのです」
「わたくしも別にわたくしたちに害だったら適当に言ったと思うけど、これから魔術ギルドとの仕事はずっと続くだろうから、『黄金のエーテル』というわけわからんものもあるから、いちおうこの星の非凡と上手く行く為におかしくないくらいの知識は知った方がいいと思って話した」
「2歳…75000歳、それ以上の差がある少年には、一生『それっぽい姉ちゃん』として居たいので」
草原を通って、普通に城が見えた。




