倉庫の話
わたしたちは誰もねえ山森を歩いて、薬草を探して樹木の種類を覚えている最中だ。
3月。まだ花はあまり見えない。これから4月、5月進みながらどんどん色んな種類の花も出てくる。色んな色が出て来て、その色々の花も種も貴重な薬の材料になるのだ。
なので、袋にどんどん草を入れながら、増えていく自分の素材をどう管理するかも悩みだった。
「そのために少年の部屋に失礼しているのではないか」
ブイオさまはドでかい狼の姿で言う。
「フィレンツェに戻った時は短期的にそう思いました。でも見てるじゃあないですか。そこ狭いんです。そして、エンブリオくんに面目ないのです」
「そう言いながらも、『少年が偉くなって、より大きい家に移すと解決する問題だ』とも考えてるじゃないか。最悪だな」
「考えてない!!!」
「思いの底の思いで読めるぞ」
そんなことを言っているところ、わたしは家以外にも薬師専用の、個人名義の素材の保管所とかはないだろうか、ちょっと思った。ギルドの倉庫に失礼できないか?心の仕事だ。需要はいっぱいあるだろう?実績と信頼が積もったら、そういうのもギルド長さんに相談したいと思ってる。
そんなことを思ってるわたしにブイオさまがまた言う。
「まあ、ふつうに建物で運営されてる薬房があるんじゃないか?ギルドや他のところの仕事を貰うと、そこを軽油した間接的な契約のカタチで場所が使えると思うのだが」
「お」
「ふつうだろう。流石に『ムー大陸』は便利すぎたようだ。こういう制度も考えられないほどにだ」
それはこの世界に住んだ経験はより長い筈の「深紅の悪魔」の立場として、聞き流せるものではない。
「いや、ブイオさまは『賢者の国』のことはなんも知らないじゃないですか。知らないのに勝手に言わないでください。
なんかあれでしたよ。賢者たちの名の下に、自分の識別子が記録されるエーテルの壺みたいなものがあって、古代魔術の分野によって分けられたいっぱいの壺の塊から自分の所有物が呼び出せる。エーテルの流れてものを持ってくれるシステマがあったんです。古代魔術の生徒ぜんぶそういうもんを使って生活しました」
「やはり便利すぎたじゃあないか」
たしかに。
「うむ、エーテルが豊富過ぎてちょっと自分の手足でできるものまで全部術に任していた気もします」
「わたくしは星として、自分の星のエーテルは節約した方がいいと思う性格だから、この星の平凡の制度は悪くないと思うんだ。そういう、術でなんとかなるよりは信頼できて汎用性が高い」
「それは反論できません」
ぜんぜん覚えてないけど、たぶん「そんな理由で」ムー大陸は滅んだはずだ。そんな気がするんだ。
「自分が自分自身だと思って、手が届く範囲だと考えて扱えるものは平凡のものも非凡のものもその限度がある。おまえにそれはステラ・ロサさんの人の子の女性の体で、服と杖で、薬の素材と社会の評判のはずだ。
この世界でいっぱい生きるんだろう?『桜のドルイド』として『森の姫様』になるんだろう。なら、『エーテル豊富の国』でも『平凡の病弱娘』でもない、今の生き方を学ぶべきだ」
「病弱美少女」
「訂正するところ他にもあるんじゃないか!?」
でも、わたしは自分が御伽噺の主人公として可愛いということも、可愛くて凛々しい人として精一杯主張しなきゃいけないので、そこは実際に自己肯定感の為に大事なところだった。
「ふむ、そうですね。色んな国に行く。色んな森を制する。そしてその森の中で桜の森も制する。もしそういうのがないと、作る。そこは確かに山森を普通過ぎると感じるわたしにも幻想的な、憧れの風景の筈です」
「建設的だな」
「そうです!」
そして芽が生えてるどんぐりの木の枝をちょっと折って採集した処で、自分の袋が満タンになった。
「今日の探索はお終いだな」
「はい、今日はいったん帰りますか」
めっちゃ時間が余ってるけど、初日から調べ事に熱中で奥まで行き過ぎると困る。(わたしはそういう素なのだ)
今日エンブリオ少年は「ギルド長による占星術のせんせいの相談日程」を貰ってる筈だ。それを待たせるとか、本当に申し訳ない。なので、今日は早めに家に戻る事にした。
そこでブイオさまはわたしの前に立った。
「ほれ、乗りなさい」
「ありがとうございます」
わたしは毛を握って素早く狼に乗った。本当にいつぶりなんだろう。




