薬草を探しに行こう
「ごちそうさまでした」
少年は朝飯を食べ終えて、食器を整理した。
「ギルドに行くのか」
「ええ、朝から『風』です」
「ふむふむ。なら、わたしも出ていきたいと思うよ。鍛錬にかねて今日からは薬草探しも開始だ」
「けっこう温かくなってますからね」
うむうむ。わたしは自分の腰の袋を見せた。
「まあ、集めてもこの袋が精一杯だ。そんなに完璧に有益な探索にはならないと思う。
それにしても、もともとステラさんとして初めて迎える春なのだ。少し楽しみだ」
「実際、クララさんとして春の森に入るのも初めてじゃないですか」
「そうそう。御伽噺ならそんな病弱美少女が森に入ってから様々な事が起こるだろうけど、❶わたしは本当に弱い体で、❷村は隠れ里。❸母は意思が強い人だ。その3つを合わせて、わたしは本当の本当に森の深いところまでは一回も行ってない。緑の中を歩いてない」
まあ、この身になってから鍛錬は毎日してるけど。普段行ってないところに出ていくのは―入っていくのは違うのだ。
そんなわたしを見て、エンブリオ少年は少し思う。
「そして……ドルイドさんがここに来てから、『深紅の悪魔』はないですね。その探索も兼ねますか」
「うん、そうだね。あいつらは結構遠くからもブイオ様が感じれる特徴を持っている。でも、感じないという事は、この辺には深紅の悪魔がない。
薬草のことを調べながら、活動の範囲も自然に広めたいと思うのだ。迷っても問題ない。わたしはもう魔術ギルドに登録している身分になっているから、別に利用しないとしても、有料道路で働いている人に『どの方向がフィレンツェなのか』くらいはちょっと聞いてもいい筈だ」
「それもそれで凄く不審者じゃないですか。急に表れてフィレンツェの方向だけを訊いて去る白髪の人」
「しかも夜には光る白髪ね。でも、わたしは薬師で、森を探るのが目的だから、もともと道路には用がないんだ。だから、働く人たちにもその事情を軽く説明すると『道を利用するのではないから…いいか?』になると思う。そういう曖昧なところを突きたいんだけど。だめかな」
少年は魔術ギルドに行く準備をだいたい終えたようだった。
「少し変ですね。道がある以上、ちゃんと馬車が乗れるところは馬車に乗って、歩く時も素直に道路を通った方がいいんじゃないですか」
「それは違うよ。ブイオさまに乗ると凄く早いのに、お金まで払って歩くのは納得がいかない」
そこでわたしの暗いマントが喋った。
「確かにわたくしは道路を利用する事もできないし、この子が素早く飛び出せないのも望んでない。だから金はともかく、道路を使わないのはありそうなことだと思う。
まあ、『自力で方向が分かるといい』という考えで占星術にも興味を持っているのはどうかと思うけど」
「それはなんか、思い込みです」
そこでわたしは反論した。反論と言うか、解明をした。
「いや、知ってるよ?『地図』も『羅針盤』も知ってる。でも、わたしは基本的に非常時を顧慮して行動する類の人間だ。きみもそうである筈だ」
「それはそうです」
「そうでありながらも思い込みが強くて結果的に変な行動になろうとも、これが素だからそれに素直に動く。わたしは多分有料道路を素直に利用することはないだろう。そしていつか、別に道を問わなくても平気になるまで夜空を読んでみせるよ」
「そこまで固く否定する必要まではないと思っただけです」
「それはそうだけど」
「占星術の方は、せんせいのアストラ・ネロさんと会うと、何かの発展があると思います。そしてそんな思いの中で『それでも迷ったら他人に聞く』ことに辿り着いたのはいい事だと思います」
「そうだろう」
流石にこの少年はわたしに優しすぎると思ってる。頭上から足指までわたしに惚れてるのだ。
「それでは、そろそろ授業に行きたいと思います」
「うん、わたしは筋トレをやった後は、なんかこの辺の森をいっぱい探ってみるよ」
「いいもの探せたらいいですね」
「そだね」




