花びらの呪術
「ふん、たぶんわたしが深紅の悪魔をまだちょっとしか倒してないからこうなんです。これから『花びら』はどんどん強くなって、わたしの術の媒体として働くはずです」
「今はできないから」
「そうですね」
わたしの体は深紅の悪魔の成れの果ての「灰色の呪い」が一回星のエーテルで再構築されているものでできているので、その深紅の悪魔としてのチカラはないし、別に「悪魔」としての記憶が戻るとしても、その自分は深紅の悪魔としてだめだめだったから人の術を学んだ。だからこの「花びら」自体が強くなることは無いかも知れない。
「もともとお前のその花びらは、粉になってる■■■と人の時のきみの体が『星のワンちゃん』にならないまま、人のきみの『森の姫様』という祈りによって定着したものだ。だから■■■でもなくて、わたくしが知ってる他の平凡の生き物とも違う。非凡の生き物とも違うのだ」
「つまり森の姫様に相応しい特別なものにもなれるということです。自分の話をずっと続いて、評判と言葉をずっと積むとそれが非凡のチカラだから」
「ふん、わたくしもそのお前の考えに続く以外はできることがないから共にするけど。別に勝算がある話ではない。わたくしが『狼の星』として知っている国の神話とかも、今の社会にはぜんぜん伝わってないのだ。物語が残るのは難しい」
「本人が残っているから大丈夫です。あの、『白神女』もずっと残ってるじゃないですか。わたしは彼女の影響キッズで十分なんです、一応」
「そう、それが最善だと思うんだ」
わたしは「薬用植物学」を開いて、適当に見たい部分を捲って薬草を調べた。
「ずっとずっと悩んだんですが、わたしはクララの時に診て貰ったドルイドのばあちゃんが作った『粉薬』の調合はできるから、それ自体が平凡の『白神女みたいな女性』としては充分過ぎるんですよ。ゆっくり生きるといい」
「そう。予想より魔術ギルドにあっさりと受け入れてよかった」
古代魔術「木」で学んだ知識で、わたしはこの世界のあらゆるところのどうぶつや草木の知識を持っている。でも、その記憶自体が「灰色の呪い」の特徴のせいで、ずっとばらばらになって動力を持ってないから、凄く薄くて、抜かれている部分が多い。
でも、大変ありがたい事に、この部屋には少年が2年間買って集めた魔術ギルド員が買える様々な本が揃っているのだ。その中わたしが使える「植物学」があったから、わたしはこの辺の地域で薬師として活動する事には、意外と問題がなかった。(こういうのも結局実際に使われる学文を確認しないと確信ができないため、エンブリオ少年に頼ろうと決めたのは中々いい選択だったということだ)
頭痛に聞く粉、心が穏やかになる粉。お肉の匂いが良くなるもの(これはなんか応用して「香りの術」にしている)、怪我を負ったところの痛みが和らぐもの。うん、このような薬学はクララの時のわたしも概要だけは知っていたので、それを自分の深紅の悪魔としての頭と、「賢者の国」の記憶を知識の栞みたいに使って、ドルイドはともかく、薬師としては…まあ、問題ないのではないかという気がしてきた。
だからこういう考えをエンブリオ少年にも言ってみたんだが彼の言葉でも、そういう薬の素材が集めれて調合ができるなら随分仕事ができるらしい。わたしは結局”ドルイドでもなんでもありません”、”薬のことなど、9歳までの記憶でわかるわけないじゃないですか”、”じぶんが人でもない化け物の時に得た薄いチート知識がなんの役に立つ”などなどの言い訳をやめて、「ムー大陸の賢者の国」の師匠から学んだ知識と現代のものを適切に合わしながら、薬師になることにした。そして、少年が起きる事を待った。
「うううう」
「起きたか」
靴の中の足指を動きながら、「頭痛に聞く薬草」のところを復習したら、エンブリオが動いた。彼は今朝もなんか変な声を出しながら布団から身を張って、瞼を開く事と同時に目覚める。
「おはようございます」
「おはよー」
ポリポリと自分の金髪を触ったあと、彼は布団から起きた。今日も授業に行くらしい。
「あ、そうだ」
「なぁに」
「多分今日くらいには『占星術のせんせい』との約束ができると思いますので、決まったら教えます」
「そうか。占星術師のアストラ・ネロさんとやっと会えるのか」
彼は頷く。
「平凡の占星術の話になると思いますけど、ドルイドさんはこどもの時から色んな童話などを訊いてるので、せんせいにも結構楽しい話し相手になると思いました。いったん、ギルド長との会話ではそんな感じだったんです」
「楽しみだね」
「今日も鍛錬に行きますか?」
「そうだ。そうだけど、そろそろ春になったと思うから、薬草の集めと『深紅の悪魔』の探索をしたいと思うのだ」
「そうですか。春は薬師としても『木』の呪術を使うドルイドさんとしても動きが自由になりますね」
「冬は本当に行動が制限されるから大変だったよ」




