驚くことは誉め言葉になる
ステラ・ロサさんは本当に買い物自体が経験がなかったようだ。どうせ私は仕事の間、食料が切れていたのを買いに出たため、パンやチーズを買いながらお手本を見せた。
「ギルド経由なら詐欺の心配も少なくて給料もいいはずだ。今の様に買えばここで生活する事に問題はないだろう」
「はい、ありがとうございました」
本当に彼女は初めて見るように見えて、それは自分の客のリソくんとも同じだった。見た目はそろそろ20才だが、わからない人だ。
「ここは都会だからできているものが買えるけど、スープくらいはどうぐと機材の余裕があったら、自分で作れるようになった方がいい。特殊な体になったとしても、人は頑張って社会に合わせて生きるしかないのだ」
「はい、そうですね」
「まあ、あえてこの様に学ぼうとするのは、相棒の少年にいいところを見せるためだろう」
「それはちょっとしか思ってない」
「そか」
少し合ってたけど、違ったようだ。
「でも、直接教わることを避けているかも知れないね」
「そうか」
「優雅な食事というものを魔術ギルドの食堂で初めて食べて、その時ちょっと情けない姿を見せたのだ。それでちょっと恥ずかしくなっているかも知れない」
「情けない姿?」
「美味しすぎて泣きました」
私は客のリソくんが自分の名前を米に付けた時を思い出してちょっと微笑んだ。
「それは良い事だと思う。誉め言葉みたいなものだ」
「確かに、ギルド長のラファエル氏もそう言った」
「多分みんな同じ気持ちなのだ。今のカタチのギルドは彼女が全部築いたと言っても過言ではない。その、自分が作ったギルドとシステマが、初めて経験する人にいい評価を貰えて、それが別に媚びようとするのでもなくて本当に良くて反応するのなら、それは嬉しい。そして少年も他の人もきっとそうだ」
「そか」
彼女は自分の前髪を触った。
「そして、泣くのもおかしくない。魔術ギルドの食糧は魔力でより新鮮に保管されてるから、美味しいだろう」
「あ!やはりそうだったのか。ギルド長は『外で売ってる料理とぜんぜん同じだ』と言ったけれど、わたすがちょっと納得がいかなかった」
私は軽く肯定した。
「質はそう。確かに同じ材料で、貴族や王様が食べるものの方がより高い。でも、新鮮度は凄く高いのだ。魔力で腐る事と、味が悪く変わる事を抑えるから。まあ、魔術師とは妙な事ができるからマギアだ」
「そんな事もできるのか。ふむ、確かに『葡萄汁』を新鮮に提供してた」
「そ、葡萄汁。実はそれが一番優雅な行いなのだ」
「そうか?」
私は「水の堂」の一部の設計に参加した時を思って言う。
「水は流れると清く、止まると腐る。それが自然だな」
「そうだな」
「そして水のマギアは魔術的に『ずっと流れるようにする』事で、あらゆる水が腐る事がなく、ずっといい状態を維持しているのだ」
「へえ」
「『葡萄汁』はその極端だ。別に特別な魔術素材ではなくて、いずれワインになる。もともとお酒というものは、保管の面で見ると、『腐るからその前に酒にしよう』という発想で作られた飲料なのに、マギアの力技で『別に汁のままで保管できる』という、前と後が変な状況になってるのだ」
「凄いな」
もちろん酒は飲むと酔うし、薬としても使える性質があるから、それだけではないが。
「そして今の水の大魔術師さんは、素材の在庫を上手くコントロールして、凄く良い質のワインも生産・流通してギルドの格を上げる事に活用してる」
「そそ。ガブリエル教授だ。直接あった事はたぶんないが、10才なのに凄い人だと聞く。わたしはフィレンツェや様々な国の常識が非常に足りないから初耳だったけど、もともと『ブリナ』家というところがワインを作ったらしいのだ」
「そうだな。私もそれは聞いたことがある」
「自分の家系の品をあげるより、『水の堂』そしてギルド全体の評判の為にチカラを使ってると聞いてる。10才なのに、なんか御伽噺の老獪な賢人みたいな人だと思った」
「そうだな」
ずいぶん御伽噺が好きな人だ。確かに、子供の時ドルイドに憧れたなら、彼らから聞く話の一つ一つがぜんぶ深く残るな。




