サイファー(マギア)
「そしてそのマギアの事だが。いったん凄くかんたんなものから始めると思うのだ」
「凄くかんたんなもの?」
「この作図機みたいにだ」
私はちょうど話題が回ったところ、2階にはいろんな機材があるので、作図の為の台を動かしてみせた。板とルーラーとペン。
「ふうん」
「私の非凡のチカラがただ私の器が許す範囲の中で、この作図機のように動く。直線を書くとか、物を動くイメージから始めようと思うのだ。私の感覚では、魔術ギルドの連中みたいに『素材』と『目的性』で勝手に働くのではなくて、動くこと自体に集中するのだ」
リソくんはわりと興味津々だった。
「何を動きますか。旦那に聞くには『四属性』はその言葉通りに炎、水、土壌、空気などを操る」
うん、これは私なりにけっこうバカな話だ。
「なんでもだ」
「なんでも!」
「動くことが目的であり過程だ。『水を動く』のではなくて、『鉄や木を動く』でもない。動けるものを動く。手と同じだ。いったんこれがこの『目的性がないマギア』なんだ。なら、私の非凡のチカラそのものが動力として物を動かすチカラになる」
「ものを動かすチカラか」
「……かも知れない」
私はあまりにも目標があいまいな自分の言葉に嘲笑して、
彼女は10歳の小っちゃい体で真剣に腕を組んで、私の幼稚な考えを聞いてくれる。
「なるほど。わたしの、いや、ウチの『なんかエーテル操作』と同じだ」
「そう。糸を操ることから想像した。それを霊では無くて、もっと還元して、零から築いた方がいいと思った」
「還元?ゼロから?」
「還元というものはもとのものに戻すということだ。平凡のものにはそういうのあまりないけど、『燃やしたものを燃える前に戻す』みたいな概念だ」
「ズルじゃん」
「まあ、想像だから。それで、リソくんの『霊の意図を動くこと』は、私は別に霊の属性の素質もなくて、見えない幽霊の糸だから、『平凡のものみたいに動く』こととはちょっと異なるものだと感じた。だから実在する糸を動くか、この機材のような自分の体を動くチカラを考えて、実用的にものを動かす。私は持ってるチカラの量は割とあるのだ」
「それは、アルベルト魔術ですね」
奇妙な名前を付けた。
「アルベルトは流石に自我が出過ぎているかも知れない。私は生涯を入れて鋼系というお方を探しているから、鋼の秘術などでいいと思った」
「なら、錬金術でいいんじゃないですか」
「錬金術がもうある」
言葉という物は勝手に付けても、そう呼ぶ人がいないと意味がないものだ。リソくんが急に私のこの秘術を錬金術だと呼ぼうとも元々ある錬金術を知る人は、「おれが知る錬金術と違うな」と意思疎通が難しくなるのだ。互いの合意があってからこそ実用性を持つ単語、用語になれる。
「そか」
「今だには理論を立てただけの遊びだ。ただ私はこう、線を書くとかできると便利だと思った」
そして私が壁を向いて軽く右手の人差し指を振ったら、その先端から白い光が出て、壁に傷を残した。
スーン
「わわわ!」
「なんだこれは」
リソくんは体勢を崩したまま、馴れ馴れしく言った。
「それこそ錬金術の原点であり頂点の、ゼロなんです。流石の『全能』」
「いや、そんなの初耳だ」
「もちろんいまウチが付けたから初耳でどうぜんです」
そして私二人は、壁を汚してしまったところを調べた。焼けてる。
「私の腕力で刻むより弱い威力だ。でも熱が出るんだ」
「これ、でも本当になにかの術ではあります。見たことないけど多分」
「こんなマギアは聞いた事がない」
彼女は逆に魔術を見た事がないので、もっと考えが自由だった。
「別に素材も無くてなんとかもないですね。でも出てる」
「そう、触媒も無くて魔法陣も呪文も無くて出た。感覚では、私の鋼の体が触媒ではある」
「つまり、レグノの旦那みたいな機材みたいな体ではないと無理だということ?」
「それはわからん。私が今出したのはそうだった」
「ふうん、まあ、早くもこうやって作れてよかったですね。マギア」
こうやって、私は今まで別に自分が作って使いたいと思った事がない(もしくは薄い)妙な技術を開発することができたのだ。
「熟練が必要だが。この様な危ないものを自分の非凡のチカラを動くだけで出せるもんなら、普段の仕事の時に勝手に使ってしまうと危険だ」
「そうですね。燃料に火ぃつけるとかすると大火事だ」
「そう、きっちり練習がてきてない限り、この技は危ない」
「なるほど」




