ワイン殺人事件
レグノの旦那は言う。
「私はただこの木材が汚くなって、それを交換し、馬車で運び、ここまで持ってきたのだ」
ウチは旦那の話をちゃんと従う良い子なので、見るだけで、その木材をぜんぜん触れないのだ。
黒い跡形が見れる。なんだこれは。
「汚れてる後がワインの染みに見えますね。いや、血か?」
ウチは少しの知識を彼に学んでいるので、直観に従って当ててみた。
彼は「血」はちょっと予想外だったようだ。
「ほう。これが血にも見えるのか。確かにそうだろうけど、私にはそう見えなかったから不思議だな」
「そうですか」
「これはその屋敷で行った殺人事件に使われた犯行の道具の、毒ワインだ」
「殺人事件!」
その言葉でウチは思わずにこぶしをギュッと握る。
「凄く驚くな」
「それは、驚くでしょう。10歳の病弱美少女なんです、ウチは」
「そうだな。リソくんは平凡の人の中では物事の喋り方が凄く容赦ない方なんだよ。大丈夫だと思った」
「そうでしたか」
たぶんそれは自分が「白い子」として記憶があった頃の家族やドルイドに、社会について聞いているからだと思う。
「うむ。とにかく、殺人事件だ。これは私の推測では、毒が入ったワインを飲んで吐いた人の後だ。そして、その屋敷の貴族さんはその不幸な人が居て邪魔ななにかの政策や意見などがあったから、それを解決したくて、事件を起こした」
「そして調査されることを望まなくて、その家を作っている旦那を呼んだんですね。痕跡を消すために」
うん、これは良い話ではない。
「そう。そして私はやり遂げた。私はあえて力量以下に仕事をやることが気に入らないから。というか、それは今のわたくしの行動原理に反する事だから、チカラを抜く事は人の子としての自分を駄目にする事だ。だから私が処置したこの床は完璧だ。検査してもただ平凡の技術でやった結果だから、隠蔽のために施された魔術などを探す為の魔力反応が全くしない」
「なるほど」
逆だったんだ。ウチは「そういうのは、でも、水の魔術で汚れた部分を消すとか、流石にできるのではないか」と思ったけど。そういう仕事をやっちゃうと後で謎々に死んでしまった人の調査をしている人が魔術ギルドの方法などを使ってわかる事ができるから、それを避けるためにあえて平凡の技術で非凡の技術みたいな洗練された結果が出せるレグノの旦那に仕事を任せる事になったという事だ。
「そして、私はマギアの事はあまり詳しくないが、この床の部分は普通に人が死に至る毒が付いていたから危ないけど、逆に『あいつが勝手に工事をして破棄したのだ』という勝手な真似をされるのを欲してなかったから、証拠としてフィレンツェまで持ってきたよ。包みを通して伝わってくるなんか不吉の気配が、このワインが非凡のものが関わってるものだということを示してる」
「そういうことは、それは魔術師による事件ですか」
「そう、私はそう思うのだ。この染みは魔術のなにかだ」
なるほど。旦那とウチはそれぞれ「木と金」「霊」など、非凡のことに通ってるけど、別にマギアではない。みんな慣れてる「火、水、土、風」の四属性に詳しいわけではない。レグノの旦那は非凡の事も凄く詳しいけど、自分の手で元素魔術などが使える人ではないのだ。
「レグノの旦那は、直接調べる事はできませんか?」
「ふむ。自分の長すぎる人生で、もちろん今の元素魔術がこの姿では無かった時期くらいに、まだ『錬金術』が平凡と非凡の中間にあった時に学んだ知識とかはあるが、それも復習をしないとないのと同じだ」
「復習か」
「いつも言ってる通り、情報を長期記憶のメモリーに入れているとしても、それをもっと早くて広い場に引いておかないと、すぐ使って利便に活用する事ができない。それは人の子もそうで、私みたいな性質を持っている人もそうなのだ。作業する時にありえないミスを起こして自分の膝とかを殴る事になると凄く嫌だから」
「なるほど」




