私はただ多くなりたいだけよ
混沌は、自分の四肢であり眷属でもある毒草の群れが、結局ハスターごと白神女の神獣を逃したのを確認して、神経質な反応を見せた。
「ああああああ!」
けっこういいところまで追ったのに!ハスターは「そろそろこの辺だな。じゃあな!」と叫びながら、体をクルクル廻り、かまいたちの色彩技を使って、一時的に毒草と触手が千切れた際を見逃さなく、姿を消したのだ。
「隠したねぇ」
でも混沌は表情をちょっと消して冷静にもどる。彼女の視線は右手で握っている、金のリンゴみたいなものに向かっていた。
彼女が手に入れた「ハスターの血」は、その量が凄く少量だ。血のもとの主の位置がわかる情報としての意味にはなってくれるとしても、これ自体が強いチカラを持っているわけではない。果実を食するなどのカタチで吸収をして、「星屑」の位置がわかるようになるとか…ができない。そうするには全然足りないのだ。
しかも、今記録されたその果実の色味には「多数のどうぶつに自在に変身できて、その特徴が使える」方のハスターが入力されているので、その方ではない「白神女の神獣」の方の姿形を取る限り、旧支配者・ハスターの追跡はできないのだ。
「まあ、飽き性のそのものがその状態をずううっと維持できるはずがない」
彼女は一応持っている星屑の量でも「実験」に使えるエーテルはしばらく十分なので、先までの戦いで減った気力を充填しながら、また信号が現れるまでは、ゆっくりと新種を開発する事にした。
ハスターの言葉を少し思い出す。
「外なる神、■■■■■■■…は関係ない」
実は、彼女は本当に流れ星に撃たれてからの前と後は曖昧であって、自分もなんでこんなに山系やこの世界のさまざまなものを敵対しているかがわからなかったのだが、ハスターとの会話で得た情報でも、■■■■■の破片のチカラが混ざっているから自分がこうなったと思った方が心が穏やかであった。
だから、それ以上の何かが混ざっているという事には深く考えずに、今の条件で、毒の属性を持つ森の生命を色々混ざったり変えたりすることに集中する。それは彼女にとって正しい、やれることをやるという良い感覚がしたからだ。
そしてこういう種の中では、人が利用するに非常に危ういけど、200年くらい自由研究をやってた「モルテ」家の闇の錬金術師には精製ができるものがあって、運が良いか、悪いか。彼らは作った毒液を使って「永遠の命」の研究を進んだり、研究所の資金が確保できたりしたのだ。
それは彼女、「混沌之種」と白神女の神獣との会話でも言われるように、作ったのは星のチカラを受けた系のウンブラと等しい存在だったとしても、素材として使われる「目的」は人の子みたいに多くて早くてよく死ぬものが勝手に見つけて扱うもので。作る側は別にそれをどう利用するか、知ったことではなかった。
彼女は山系でも、毒を持つ、マリス・システマ・ロロロロロ。種が多くなって欲しい。
でもこの毒液は1470年代の現代社会にひどい影響を及ぶ。
闇の錬金術師が作っているその毒液、「真理の求め・闇のささやき、1473」はワインに混ざってる時に水のマギアの判断が非常に難しくなるもので、ワインに混ぜてその複雑度を上げてる側の努力に比べて、検査の術には遥かに高い境地を要求する。つまり、使うのはかんたんだけどめっちゃ分かりづらい。平凡の毒とは違う性質を持つそれは、1473年の真冬から中々いい評判と値段で取引が行われて、結果的に設計士、「全能」のアルベルトが作った屋敷での殺人事件に使われることになったのだ。
「もっと星屑が多くなると、たぶん今より色んな魔力植物が作れるのにな。やはりもったいない」
もう一回、混沌は両手でハスターの果実を握る。その表面はリンゴの天然の性質でつやつやテカテカであった。




