人が少ない所について
「なら、人の目を気にせずに少しずつ試してもいいのではないでしょうか」
「まあ、わたしの場合人目がなさすぎる山道にすぐ行くから別に関係ないけどね」
「そうか」
魔術ギルドの恵まれた機材と環境で術を研究することが多いマギアと違って、ドルイドという人たちは考えてみれば山森を歩きながら薬草などを採集する、平凡の薬師とほぼ被ってる仕事が主になる。そして、人の目がある場所だと言っても自由村落だし。あまり周りを気にする必要はない方である。
「でもわたしはその中で珍しいからな。『桜のドルイド』だからな。『深紅の悪魔』から良く人助けをする予定だ。だから人の前に呪術を見せることはそれもそれで中々あることでもある。考えて損はない方法だと感じる」
彼女もそれなりに「頭で実践までやる」を試してみるつもりだ。それは嬉しい。
「まあ、でもここ、フィレンツェみたいな都会のところではないですね。おれの時が珍しい方でした」
おれはただ年末の夜に、くっそ見えにくい所をウロチョロしてたら、暗くて静かなところを好むあの悪魔に引っ張られて、もっと見えないところで大変になるところだったのだ。実は普通に聖堂前の広場辺りだった。
自然に、そいつらから人を助ける彼女も別に多人数の前で活躍するわけではない。
「ぜったいそう」
「もともとドルイドさんは人が多い所は好まなかったんですね。その使命は中々性格に合うかもしれません」
「そう。だから『ドルイド』向いていると思うんだよ。わたしがもし貴族さんの家系で生まれたとか、都市のマギアだったとかするとまた違う成長環境になって、心も運命も違ったかもしれない。白の子ではなかったら尚更だ。でも、クララとしては普通に人が多すぎる都会よりは山森を行き来した方が気が楽で、性に合うよ」
「でも人は一人で生きることが大変だから」
「そうなんよ」
彼女は平凡の心と非凡の体に星のチカラを受けた、永遠の性質を持っている魔力生物みたいな存在で、「狼の星」ブイオさまの欠片を集める使命がある。そして、その旅の為に根拠地が必要になって、やはり、知り合いいないんだよな…になっておれん家まで来ている。
でも、それがなかったら?
その目的性が本当になくて「まあ、どこでもいいよ」してもいい暮らしだったら、根拠地なども関係なく、「薬師」としてのちょっとあやしい立場も関係なく、今も影の馬車みたいな狼に乗って走っていたのかな。
「いいですね、そういうの」
「今のわたしもほぼ同じだけどね。あ、でもわたしは毎日訓練しないとその永遠の体とやらがあやしくて、『森の姫様』という偉大なる使命も持ってるから、安定した名前や場所などもそれもそれですごく大事だ」
「森の姫様ですね」
そのブイオさまも「正直未だにも理解してない」と言ってるステラ・ロサさんの偉大なる使命というものは、どこかわからない森の、サクラという花が咲いているところ。王様みたいな姫君になる感じらしい。もちろん、おれもさっぱりである。
「森の姫様はそれ自体がわたしのクララとしての生きる意味だ。そして、非凡としての物語性を維持する柱の芯を兼ねてるから。なかなか大事な概念だよ。たぶんこの話が20巻になってもずっと続いてる」
「何巻まで続くんですか?おれたちのストーリー」
「わたしが『森の姫様』になっても終わらない」
そうちょっと考えてもまともな答えになってない話を言い、彼女はめっちゃかわいいルビー色の笑顔を見せる。綺麗だ。
「綺麗だ」
「存分に褒めるがいい」
「そして物語性とはなんですか」
「それは目的性や魔術の種類みたいなものだよ」
「へえ」




