真夜中が過ぎてしまったあの夜
そして、わたくし、アルベルト・レグノは薬師のステラ・ロサと別れて、市場に向かうのであった。
彼女との会話で、ベネチアの穀物生産の構造が思い出せて、
彼女と顔がとても似ている、自分の客との初めましても思い出せたから。
うん、似ている。
わたくしが面倒を見てるリソくんは先の方向音痴の人と顔が全く同じだ。親戚かも知れない。
でもただ似ている関係ない人の可能性も随分あって、リソくんはステラ・ロサみたいな薬師でもなくて、「木属性のエーテルを似る」特性も全然持たないのだ。
彼女が持つのは僅かなちょっとの「霊」のチカラで…
眼も、ステラ氏のルビーみたいな赤い瞳ともぜんぜん違う色をしてるから。
平凡としては健康体すぎる彼女に比べると病弱な白の子だから、
やはり世界には似ている人の子もいるんだな、と、
新鮮な野菜と牛乳と米を買いながらわたくしは思った。
「うむ、これで万全だ」
彼女を拾ったのは昨年の12月。そんなに経ってない。このフィレンツェの初めての教会だっけ?でも最近の何十年前、万能人であるレオン・バッティスタ・アルベルティが前の構造を作り直したと覚える、あのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会の近くに、彼女は捨てられていたのだ。
1472年の12月8日になる真夜中、わたくしは少女を拾って、今に至る。
アルベルティ、死んだんだよな、とか思いながら、非凡の流れ星を見て観想的になりつつ道を通っていたわたくしを見ていたのだ。
黄金の目と雪のような髪を持って、透明な視線を向く10歳の少女が居て、わたくしは何千年前か見てた、白神女を思い出した。だから、飯でも食わせようと思って、家に連れて来たんだけど。
その少女はどうやら人の子としてはだいぶ珍しい「霊」の才能があって、記憶ははっきりしない。どう見てもこれは、手放したらすぐ魔女になって広場直行だ。それは流石にかわいそうだと思ったから。
「わたくしが来た」
「どうも」
「今日はなんか初めてきみに出会った時を思い出して、米を買ってきた。これ好きだったな」
「確かに米は好きだ。今まで食ったこともなくて、小麦とぜんぜん違う味していた」
「自分の名前を米にするくらいにな」
それは彼女の頭が白いから適切ではあるけど、なんかそのままの自称だな、と、わたくしは思う。
でも直観的で、悪いとは思ってない。名前はそのものの性質を示していて、自分が気に入るとそれはすごくいい事である。
「旦那の部屋は正直、あまりやる事が無いのです。ウチは本が読めなくて、しかもウチが持っているというそのエーテルとやらのチカラが上手く使えるわけでもない。本当にただの食って寝る客だ」
「いい日常じゃないか」
「とても最上です。外は確かに怖いのです」
そんな話をしながら、料理もぜんぜんできるわたくしの米の飯に、バターと牛乳と羊肉が混ざりあい、とてもいい匂いを発していたのだ。
「うむ、我ながらいい出来だ」
「いい匂い」
わたくしは完璧な機械人形として生まれて、自分のやりたいことを探していっぱい、この何千年をなんでもやりながら生きていたけど、今はこの少女の面倒を見るのが結構楽しくて、悪くない気分だった。
「ふむ、美味しい」
「いつも眼鏡外すんですね」
「それは、まあ、曇るからな」




