カルチャーショック
「ご馳走様でした」
牛乳も、パンも、スープも上品のものだ。パンは焼きたてが素晴らしいけど、流石に最近何回食ってるから慣れてる。でも、特に、スープは衝撃的だった。わたしは「クララ」として村で食ってたスープが、実はここの基準ではスープになってないものだったということを今知ったのだ。マジか…
確かに小麦が完全に粉になってないとそれは小麦粉ではないかもしれない。わたしが今まで見てたのは小麦の粒を干し、村の貧乏などうぐて砕いたものだったのである。みんなが人力で、一日中ずっとやって、首と肩と腰と膝がおかしくなるのだ。(わたしはふつうの作業がぜんぶできねえ、だめだめ娘だったので、ただ見ていたばかりだ)
それが、話だけを聞いてる「風車」で作ってる粉とはぜんぜん別のものだったらしいので、その小麦粉で作ったはずのこのスープは、それもぜんぜん別物だったのである。
村で食ったスープの超強いバージョンなのだ。
いったんスプーンにねばねばだ。こういうものができるのかよ。そして、味が濃い。太い。なんと言うか、強い。塩と何かのものが一緒に入っている。
そしてこれをパンと共に食うと、強烈すぎるのだ。色んな考えが交える。本当にこれは「10歳になって生まれ変わってよかった」とも、「何万年もこの世界で住みながら、なんも食ってないとか、何をやってたんだ」とも思える、喜びと惜しい気持ちが混ざる、なにがなんだかわからなくなる程の旨さだったのだ。
美味しかった。
「泣いてるんですか」
エンブリオ少年はちょっと驚いたらしい。
「泣いてない」
ラファエル氏もちょっと意外だった様。
「そんなに美味しかったのか。ここと同じものを市町でも売ってるのです。薬房と働くと、飯の値段はあまり心配しなくてもいいと思いますよ」
「そうですか」
魔術ギルドの特別食堂ではなかったのかよ。
「物流は全部繋いでるから」
「確かに」
確かに。ここは人々の非凡のチカラが集まる場所、魔術ギルド様様だけど、同時に「エーテル技術者たちの業務及び教育機関」なのだ。最上だけど、普通の類だ。別にお貴族の名家でもないし、王様の城はもっとない。
上級だけど、それは庶民のレベルでそうであるということだ。同じものの物資が国際的に流される。取引になる。希少性を高めるための独占ではないのだ。
そう言えば最近行った「海岸の郷」でも、「塩くらいでそんな反応しますか?」みたいな感じだったな。
仕方ない。わたしは田舎娘なのだよ。
わたしの村はもともとここに比べると何もかもが無かったから。ここフィレンツェの大門あたりの行商人と少し取引するのが村の唯一の外部交易だったくらいの、他は全部村中でなんとかする閉鎖的構造だったからな。
「泣いてたのももちろんですが、おれはステラさんが食べるのがめっちゃ早くて、それもちょっと驚きました。普段はこんな感じではないのです」
泣いてないって。それはわたしが今発現した「水」のチカラだ。
「冷めちゃうのが惜しかったよ」
「たはは、長としてわたくしはとても嬉しい」
ラファエルギルド長は愉快に嗤った。
「そうですね。多分ステラさんはこれからも色々、ギルドに顔出せると思いますので、気に入ってもらえたらそれは良い事です」
わたしも言葉を合わせた。
「働い先が決まると、不定期的に薬の配達とかあると思いますね」
「なるほど。そして、アストラ氏がもしその気になったら、「占星術」の相談もありますよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
アストラ・ネロさんってどんな人なのかな。気になるな。
わたしは自分の食べ物ぜんぶ食っちまって、ただ廻を見ていた。
同じギルドだから、もしかしたら食堂で昼飯食うかも知れないじゃないか。見てもわからないけど。
食堂には普通の髪色の術師がほとんどで、それでも一部は稀な色で自分の髪を染めて、自分のエーテルのチカラを示していた。なるほどな。
「こんなに髪色が派手な連中を見るのも初めてでしょう」
「そうです。なんか、彩の花畑を見ているような気持ちです」
「あらぁ」
「わたしは最近何日、少年の部屋にある「四属性」の元素魔術の本を文だけをちょっと見ただけですが、確かに世界の元素が回って、働いて、わたしたちが見ている光景を作っているのだなど。ギルドの建物に入って、直観的に感じれます」
「へえ!確かに「占星術」向いてますね。見るに「四属性」の素質は本当に感じませんが、理解がなってる」
どうやらわたしは生まれ変わっても、マギアとしての才は本当に無いらしいのだ…
「嬉しいお言葉です。たぶん子供の時の恩人に色んな御伽噺を聞き過ぎた影響だと思いますね」
「なるほど、星座には色んな話が入ってるのです」
「はい、本当にそうでした」
そこでエンブリオ少年は、わたしたちが焼かれないくらいの、安全な質問を選んだらしい。
「星と言えばせんせい、先の「巨木」の話ですが」
「うん、優秀な奴らを選んだね、たぶん今の昼飯で最後。しばらく良く出来てる飯はないね。その調査対象がなに」
嫌な任務だな。まあ、狩の為に鹿の生態を調査する等とも同じことだ。
「はい、よく戻ってくると良いですね。そんな怪物は、昨年の「大きい流れ星」と関係があるのですか」
「ううん?」
それは勿論「欠片」の話である。
「流れ星は隕鉄とかが稀に降りるから、おれはそれが魔力源として働いて、普段は微弱な、普通の魔力植物だったものがデカくなったのではないかと」
「調べないとわからないな。でも、エンブリオ、それはおかしい点がある仮説だ。流れ星に撃たれると死ぬだろう」
「それはそうだ」
わたしはただ「それもブイオさまの「欠片」と関係あるのかな。そうだとしても、回収は難しいだろな」とか思ってるので、彼女の言葉に適当に合わせてみた。
「落ちたものを拾ったのです」
「植物がそれができるか」
「それもそうだ。ラファエルさん、わたしは御伽噺などをよく聞いてますが、それを、「花の妖精」などが居て、そのものがいったんの術師みたいに働いて、何かのチカラを得て、樹木を大きくした結果だったり…などはできないのでしょうか」
「それは「植物は動かない」は解決か」
「もちろんわたしはただの御伽噺を知る薬師希望ですが、どうやらエンブリオ曰く、ドラゴンとか、非凡の生命体は確かにいるらしいので、想像してみました」
「そうですね。いたりしますね。ふむ……なら「怪物巨木」は基本的に何かの魔力源を拾った森之魂か?ぬ、でも報告にあった奇怪な形とは話が合わない。特性自体が変わらない限り、チカラを得ただけでは魔力のものは、そうならない」
森之魂がだいたいそんなものを読む言葉なのか。たしかにそうである。
「もとの性質が変わる事は希少なんですか」
「そうですね。それこそ人の「きっかけによる変化」よりもありえない事なんです。持って生まれた属性は、マギアの属性よりも固い」
「へえ」
確かにわたしが一番知ってるであろう非凡の種族、「深紅の悪魔」もそうだったな。わたしを組んでいる半分である変な奴みたいに…「人の魔術」とかを学ぶなどあり得ない。ただ持ってる「見えない心の言葉被り」みたいな、できるものをやって生きるだけだ。
なにかの必要が無い、厳しい理由も無い。そんな奴が持つ特性を変えるのは考えにくい事である。




