人を焼く魔術
「俺より年下か同年代か年上…年上が結構多いこのホールですが、まあ、なんとか戦争を何回も通りながら、俺より多く人を焼いた魔術師はないと思いますね」
「火」の属性は基本的に燃焼する素材を火のエーテルに変換させて、望む物語性。すなわち目的性と方向、速度と、そして印を付与するという、すべての魔術が共有する(そしてドルイドの呪術も共有する)構造になっている。
もちろん色んな所に使うのだ。今のような寒い時期は非常に効率よく部屋を暖めて、貧乏の死亡率を下げる事もできるし、悪臭が出たり病の可能性があるゴミを煙や消し炭を制御しながら、あと処理を共に行う掃除屋としての役目もあるのだ。
「防火」もそうだ。大火事になった時に、逆に「危なくない方向に」燃える渦を消費させて、被害を収めて治めることもできるのが元素魔術「火」だ。
もちろん戦争で人を燃やす時にも使う。うん。
おれもそれのお蔭で、群れを追う騎兵を刺した炎の矢で(投げ槍だったかも知れねえ)助かったから、やはり人の命を直接に干渉するところが一番の出番だな、と思うのだ。
術師の個人は、まあ、狂うよね。魔術というのは基本的にその過程で廻を感じるしかないからな。それは、桜のドルイド、ステラ・ロサさんが「花びら」を触ると「ううう」するのと同じ事だ。
自分が接続して「もっと燃えやすく」「もっと上に」とかを指定した反対側之感覚が来るのである。
だから、ミカエルさんはやさしいから、自分の学生たちが最大限、有能な火の魔術師になって、戦って生き残って、個人のキャリアになって、後悔が少ないことを願って。あえて、ふだんの性格よりも多少サイコパス的な面を起こして(つまり、無いわけではない)授業をしているところだ。まあ、たぶん自分のストレスの発散にもなってると思うのだ。
うん、おれも含めて、人の心と気持ちはよわっちいもので、壊れやすいもので、もう壊れた時も、人は生物である限り最大限生きるしかないので。いちおう。この魔術ギルドの全体の魔力の5%くらいを個人のチカラで発揮できる彼の定めは、まあ、幸せに生きることである。
みんなが願う。みんなが望んで、誰も嫌うことなく祈る日々の平穏なんだけど。
彼は正直、強くて。もう彼が触れる範囲のものは、湿度を下げて燃焼させるいちばん効率的ななにかの固有魔術も持っていて、それは半分は彼以外は使えないから、半分は営業秘密という奴だ。
うん。おれの一番の不安は自分が「火」の魔術師になって戦場出て(それ自体は、まあ、自分の恩返しみてえなものだが)自分の魔術で視野が制限され、その隙に矢や石ころ、鉄の球などが飛んで来るのではないか、それが一番こわいけど。
たぶん、ミカエルさんがそれで死ぬことは無いのではないか。
まあ、他の騎士たちも魔術師たちもただの案山子ですな、ではないので、へい、ミカエルさんがぜんぶ焼いて終わりました、やはり主人公さんはつよいですね、と物語が終わるのではなくで。
そして騎士小説と違って、戦争は終わらない。実は。
拮抗状態だとか魔術ギルドの中立性とか言い方はいいが、まあ、どっちにも付く傭兵なのだ。金と時間と都合で、誰でも相手する、まあ、13歳だね。今も。
だから、ミカエルさんはかわいそうなんだよ。
そんな事を考えていたら、おれはもう認識済みの優れたものなので、話かけられた。(まあ、彼が来やすく弄りやすい年下で、魔術扱えるやつだという点もある)
「エンブリオ少年!」
来たか…
「はい、せんせい」
「いつもそうだけど、今日はより心が逃亡してんな!俺の人焼く話はそろそろ慣れてるらしい」
それはそれで事実かも知れないけれど、おれはせんせいが命の恩人だし、幸せになって欲しい。そして昨日はその心で「元素魔術「火」」をずっと見てたら、逆の逆の逆に寝不足になりました。申し訳ない
の意味を込めて
「すみません。火属性について真剣な悩みをしてました」
とか適当に言った。
「ほ?」
「燃えたやつを戻す事はできない。でも、「エーテル」はそれが行使される直前のチカラ。それを逆に巻くとか、できるのではないでしょうか、とか思いまして。」
「ほ。10歳ですごいな、それは先絵を反対側に描いて動かすみたいなことだ!」
「8才ですね」
「知ってる」
「そうですね。でもそれ自体は目的性が薄いから、何かの呪文には至らないかと思いまして。その疑問を抱きながら授業を聞いていたところです」
までがぜんぜん囮で、もちろん先ドルイドさんが触ったほっぺのこととか考えていた。




