雑花厳浄
その時、蒼い鴨が一匹こっちに飛んでた。
「お、時間か」
「それはなんですか」
鳥の使い魔を操ることなど元素魔術では基礎のものだ。鴨は水玉に姿を変えて、彼女の仕草に従って、一回回って円盤になった。
「新技術だ」
そして彼女は円盤の中央をタッチすると、
「こうすればいいんだな。えーと、こちらラファエルだ。言う事無いな。そしてこの部分を押すと」
という、魔術ギルドの長、轟のラファエルの音が再生される。
「なるほど、水面に話をかけると揺れる事を逆再生する仕組みだ」
「すごいだろ」
「なんかいらない部分も刻まれた気がしますけど、それは使う人が慣れればいい。便利ですね」
おれらは頭が良すぎるので「使い物にならないですね」みたいなギスギスの会話ができない。それはなんか、仕方ないものなのだ。
使い魔が直接飛んで来る必要があるから、鳩と何が違うのかちょっと迷うけど、❶術師の思うままに動ける❷気の通路と違って、周りのものも聞ける。❸手紙を書く必要がない
などの利便な特性を持つ魔術だ。
「名はなんといいますか?」
「まだ付けてないな
ふむ
「水玉言葉」」
「そのままですね」
「エセンピはシンプルで、言葉の調合は特性を反映する、わかりやすく」
「うむ、お見事です」
彼女はちょっと気分が良さそうだった。
「ちょうど時間を潰す相手が必要だったところで、きみが通っていたということよ。
眠いのに悪かったな」
「ぜんぜんいいです。いいものが見れた」
「そう言われると嬉しい」
「それでは、また会いましょう」
「うん」
そして、「仕草の省略」、「操作のわかりやすさ」などの改善点を悩むガブリエル教授を後にして、おれは流石に眠かったので、元の予定通りに家に戻ることにした。
春は遠く、所所に粉雪が見える魔術ギルドの庭を通り、正門を通り(魔術記録が残る。)いつものように臭う道を通って、普通の自分の家にたどり着いた。
「お」
そして、門の前には、ダークグリーンのマントを被った女性が一人。
「こんにちは」
彼女の名はステラ・ロサ、桜のドルイドであり、「深紅の悪魔」から人を守る使命を持つものだ。自分によると不器用だらしい。
「お元気ですか」
「うん、もう一匹倒した」
「へー
とりあえず、中へどうぞ」
「失礼します」
くっそ眠かったけれど、命の恩人に会えてうれしい。何日すぎてないけど。
ーーー
室内
ーーー
「服はそんな感じなんだ」
「はい、一応「魔術ギルド制服」ですね」
おれはマントや上着を整理して、本も机に適当に置く。
「そんなに用があって訪れたと言うと、事実だけど、ただ「調子はどうだ」のついでの事だ」
「おかげさまで元気です」
と、何日もろくに寝てないおれが言うと、
「ふふん。眠いんだね。いいもんを考えたんだ。いいかな」
と、長い指を張って右手を見せる。
「興味深いですね」
彼女の指先に「木」のエーテルの花びらが出て、
「爽やか、軽さ、安らかに、「爽快!」」
おれに飛ばすと、当たりそうで当たらない感じで花びらは粉になった。
「うっ」
そして、花のような香りがして、眠いのは同じだが、頭が浮いてるような寝不足のふわふわした感覚が落ち着いている。
「疲労がちょっとマシになる呪術だ。作ってみた」
「ドルイドさんらしい素敵な術ですね」
「ふふん」
急用はないだろう。
「此度のフィレンツェの予定はありますか?実は、それでも眠いのです」
「特にないね」
「なら、ちょっと寝るから、本でも好きに読んで下さい」
「読めないけど、まあ、いちおう寝てね」
「はは」
そして、おれはちょっと仮寝をした。この呪術、けっこういいものだ。




