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序章
そこには何もなく、全てがあった。
変化も未知もない、親に用意されたごく小さな箱庭。
けれど、それで良かった。
大切な存在、自分の半身が隣にいたから。
外界と関わらずとも、愛しい半身の一挙一動が自分の心を満たしてくれる。
半身とただ戯れるだけだった日々。
それが、自分の覚えている中で最も色鮮やかな日々だった。
心のどこかで、ずっとこんな日が続くのだと思っていたし、それを願っていた。
大それた願いではあるまい。ただ半身と共に在る日々を続けるだけの、ごくささやかな望みであった筈だ。
だというのに、その願いは既に遠い記憶の彼方。
どこで、何故ともに在る筈の道は分かたれてしまったのか。
夢見る日々を塗りつぶすのはどす黒い悪意。
ここは――悪意の檻だ。




