やり残したこと
ジルは窓の前に立ち、外の景色を見つめている。
鉄格子に遮られている空は赤く、空の果ては夜の色に染められている。
ガチャンッ
ドアの施錠が外される音。
もはや振り向くまでもなかった。
その気配、足音、息遣いだけで誰が自分の背後にいるのかわかる。
「ジル、ひさしぶり」
声の主__イリーナは、ジルの背中に問いかける。
ジルからの返事はない。
イリーナはため息を吐き、ベッドに腰をかける。
毛布や掛け布団、シーツすらついていない薄いベッドは硬い。
とにかく寝心地が悪そうだが、そもそも彼はちゃんと眠ってすらいないのだろう。
ジルの目の下には濃い隈が刻まれている。
「ジル、こっちにおいでよ」
イリーナは自分の隣をポンポンと叩く。
ジルはイリーナを見ようともしない。
イリーナはその冷たすぎる態度に、わずかに頬をふくらませた。
「あなたの刑を、宮殿の私の部屋への軟禁に変更してもらうことだってできるのよ?」
「命令をしているんですか」
やっと返事をしてくれたが、敬語だった。
彼がまだ神父だった頃の外面を思い出す。
「本当は、私の部屋の方が良いのかしら?」
そう挑発すると、ジルはイリーナに視線を向ける。
ゆっくりと窓から離れ、イリーナの隣に座る。
(こうもしっかり拒否をされると、逆に傷つくな……)
「身体の調子はどう?」
「……問題ない」
「生活は不便じゃない? ちゃんとご飯は食べてる?」
「……」
「自分を殺そうとした人のこと、思い出せた?」
「……」
無視と黙秘。
まったく会話が続かない。
傷ついている暇はない。
今日はちゃんと彼と話しに来たのだ。
「ねえ、ジル……」
ずっと聞きたかったことを、ちゃんと聞きに来た。
「どうして処刑を望んだの……?」
「……」
この質問にも、やはり答えはない。
彼はどうしてそんなにも死を望むのか。
ジルは答えない。
ただただ、暗い目をしている。
彼にペンすら与えられないのは、自死を防ぐためだった。
ホロミア塔の警備兵は15分に一回、彼の様子をドアに作られたのぞき穴から確認することになっている。
ちゃんと食事も摂っていないのだろう、顔は窶れて憔悴しきっているのが分かる。
このままゆっくりと死んでいくのではないか、そんな不安が頭に浮かぶ。
「ジル、」
できる限り明るい声を出す。
「お菓子、食べたくない?」
「実は材料を持ってきてるの、特別に作ってあげる」
そう言って、イリーナは部屋を出てキッチンへ向かった。
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