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傲り


 ルイの戴冠式の数週間前。


 路上で血を流して倒れているジルを発見したのはイリーナだった。

 裁判の日以降、自分の前に一切姿を現さなくなった彼を案じ、皇女の立場を利用して彼の捜索を行わせていた。


 貧民街に潜伏していることを知り、居ても立っても居られず、イリーナは変装して自らの足で貧民街へ向かった。


 その道中に人だかりがあった。


 どうやら人が倒れているらしい。

 だが、誰も助けようとはしていない。


 治療費も葬儀代も立て替えてやる金なんかない、面倒なことに巻き込まれたくない、そのような言葉が聞こえてくる。


(人の命をなんだと思っているんだ)


 そのような憤りを覚えたものの、


(いや、それは自分が皇女で、お金に困っていないから言えることか)


 イリーナはすぐに冷静になり、


(じゃあ、私が助けるしかないじゃない)


 そう思い至った。

 人混みを掻き分けると、見慣れた長い白髪(はくはつ)


「ジル!」


 幸いなことにまだ呼吸があった。

 すぐに医者を呼び、彼の治療にあたらせた。


 彼の手術を行ったのは宮廷の、一番腕の良い医者だった。


 「彼を死なせたら、お前も処刑してやる!」と、喉まで出かかっていた言葉を飲み込み、イリーナはとにかく神に祈り続けた。


(お願いジル……死なないで……!)



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 プロメシア皇国北部、ホロミア塔の最上階。

 イリーナが居たころの家具はほとんど撤去されている。


 ただただ広いだけの部屋には必要最低限のもの__椅子と机、ベッドしかない。

 机の上には申し訳程度に聖書と、紙と木炭、そして新聞が置いてある。


 新聞の第一面には『新皇帝ルイ陛下、即位』という見出し。


 かつてイリーナが暮らしていた部屋には白髪(はくはつ)紫水晶(アメジスト)色の瞳の青年……ジルがいた。

 長かった白髪(はくはつ)は短く切られ、服装も僧服ではなく質素なシャツとボトムだった。


 あの後、ジルは無事に意識を取り戻した。

 傷はまだ塞がっておらず、後遺症もあるものの、日常生活を問題なく行える程度には回復していた。


 ライ・カーンの部下として多くの命を手にかけ、それに止まらず、ライ・カーンが告発されてから姿を消し貧民街に潜伏……すなわち逃走していた彼は、本来ならば問答無用で処刑される立場だった。


 だが、皇女であるイリーナを守り、ライ・カーンのこれまでの悪事の証拠を見つけ出したのも彼だった。


 イリーナの必死な要求もあり、彼には特赦が与えられ、『ホロミア塔に無期限幽閉』にまで減刑をされた。


 皇女イリーナはさらなる減刑を求めるも、彼自身がそれを拒否した。

 むしろ彼は処刑されることを望んだものの、それが聞き入れられることはなかった。


「あなたの身を案じて自ら貧民街まで(おもむ)いた皇女殿下と、あなたの命を救うために手を尽くした医師の尽力を知っていながら、処刑を望むのは(おご)りなのではないのか」


 それが裁判官から彼に告げられた言葉だった。


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