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即位


 会社員・佐藤梨奈は特筆すべき点のない、どこにでもいる一般人だった。

 一方、プロメシア皇女・イリーナ・アリフレート・トランドは悪女として歴史に名を残すと評される極悪皇女だった。


 父君であるアリフレート皇帝が病に伏せ国政を執り行うことが不可能となった時、正当な王位継承者であるルイ皇太子は皇帝としての資質に欠けるという理由で自らの王位継承権と支配権を主張、その美貌で有力貴族たちを傘下に、ルイ皇太子を取り除こうとした。


 アリフレート皇帝に仕え、ルイ皇太子の摂政である魔導師ライ・カーンは、教会と世論(せろん)を味方につけ、イリーナ皇女を国家反逆者としてホロミア塔に幽閉。


 だが魔導師ライ・カーンの真の目的はルイ皇太子を傀儡(かいらい)とし、プロメシア皇国を支配することだった。

 それが暴かれた今、イリーナ皇女は「反逆を起こそうとした極悪皇女」ではなく「私利私欲に塗れた凶悪な魔導師から国家を守ろうとした女神」へと変わった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 大聖堂では、新皇帝の戴冠式(たいかんしき)(おごそか)かに進められている。


 皇帝の生前譲位(せいぜんじょうい)の場合は皇帝自らが、皇帝の死後の場合は総主教からの戴冠の儀が行われる。

 アリフレート皇帝が崩御(ほうぎょ)した今、帝冠(ていかん)は総主教の手にある。


「皇国の月となり過去を(おも)い、太陽となり未来を照らしなさい……

 そなたに帝冠を授けよう」


 総主教の前に立つのは伝統的な装束を身に纏ったイリーナだった。

 白を基調とし、金糸で繊細な刺繍が施され、パールが散りばめられたエンパイアラインのドレスは、間違いなく救国の女神と呼ぶにふさわしい出で立ちだった。


 イリーナは(ひざまず)き、総主教から(うやうや)しく帝冠を()()()()と、すぐに立ち上がった。


 戴冠式を見守る者たちの中からわずかなどよめきが起こる。


 どよめきの中、ルイが現れる。


 ルイはイリーナの前に跪く。


「ルイ・アリフレート・トランド、我が弟……共にこの国を守ろう」


 イリーナはルイの頭に帝冠を被せる。


 この演出は特例の処置だ。

 騙されていたとはいえ、一度は魔導師ライ・カーン側に立ち、皇女であるイリーナの幽閉に同意した教会への、イリーナが提示した宥恕(ゆうじょ)の条件である。


(転生前から一度やってみたかったのよね、王冠を被せるやつ) 


 どよめきが歓声に変わる。


 ここに新皇帝ルイの即位が宣言された。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ルイ新皇帝、万歳!」

「イリーナ皇女様、万歳!」


 皇帝即位のパレードはイリーナとルイの二人を祝う形で行われた。


「みんな、イリーナ様たちを祝福してますよ!なんだか夢みたいです……」


 馬車の後ろの座席に座るティアが笑顔で涙ぐむ。


 ただのメイドに過ぎなかったティアだったが、専属侍女に昇格させた。

 イリーナへの忠誠や今日までの活躍を鑑みると、妥当な評価だろう。


 これから新しい歴史が始まる。

 ルイはきっと素晴らしい為政者になるだろう。

 今はまだ未熟だが、姉の私が全力で守ってやればいい。


 私の中にはもう一人の私がいる。

 それは完璧に分かれているもう一つの人格、というわけではない。

 混じり合い調和した、私の一つの側面、と言ったほうがいいのかもしれない。


 これからはルイ皇帝の補佐役としてイリーナは政務に携わる。

 そのことに異論はないし、ルイが一人前になったら政務から離れ、皇女の地位も放棄するつもりだ。


 自分にはもっと大切な、やらなければいけないことがあるから。


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