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因果応報


 ライ・カーンの収監されている地下牢を出て、ジルは宮殿を去る。


 裁判の日からイリーナには会えていない。

 と言うよりは、彼がイリーナを避けていた。


 ライ・カーンとその部下たちが告発されている状況の中で、自分がイリーナのためにできることはもうない。

 彼の処刑の日までは貧民街(スラム)に身を隠すつもりだった。


 王都の中心部から貧民街(スラム)への道すがら、()()は一瞬の出来事だった。


 12歳前後の少年がジルに突進する。


 少年の手にはナイフが握られていた。

 そのナイフは脇腹に突き刺さり、すぐに生温(なまぬる)い液体が黒い服に滲み出した。


 地面に血のついたナイフが落ちる。


 ジルはふらつき、僅かに体勢を崩す。


「よくも……よくもナイルズさんを殺したな……!」


 この少年に見覚えがあった。

 寺院で生活をする孤児たちの1人だ。


 ナイルズの仕事は寺院の管理であり、その中には孤児たちの世話も含まれていた。


 そういえば、彼は子供達から慕われていた。


(この少年はナイルズの敵討ちのために、俺を殺しにきたのか……)


 ナイフは深くまで刺さらなかった。

 この程度じゃすぐには死ねず、出血多量でいずれ死に至るのを待つしかない。


 その前に医師の治療を受けられたら助かるかもしれないが……


 すれ違う人間たちは誰もジルの出血に気付いていない。


 貧民街にほど近い場所。

 ここの住民たちに、他人の様子を気にしていられるような余裕のある者はいない。


 ジルは苦痛を表情には出さず、少年を見つめる。


 少年は震えている。

 腰が抜けたのか、その場にへたり込んで逃げることすらしない。


(人を殺すこと自体が初めてか……)


 自分をずっと探し続けていたのだろうか。

 やっと見つけ出し、今しかないと思い、衝動のままにナイフを突き立てたのだろう。


 刃物を向けられたら、同じように刃物で応戦をしてきた。

 だが、今目の前にいる少年に何かする気にはなれなかった。


 自分にとってのイリーナは、ライ・カーンを裏切りナイルズを殺してまで守りたい人だった。

 彼女の死だけは受け入れることができず、無様に足掻いて死なないでくれと何度も懇願した。


 この少年にとってはナイルズがそのような存在だったのだろうか。

 

「すまない……」


 ジルの口をついて出た言葉。


 それは謝罪だった。


 きっと自分もイリーナを殺され、その元凶がのうのうと生きているなら同じことをしていた。

 これは罪を重ねた自分への因果応報だ。


 ほとんど無意識に出た言葉だったが、ジルはその言葉に納得をしていた。


「何を今更……ふざけんな……! ふざけんな……!」


 少年がボロボロと大粒の涙を流す。

 そして立ち上がり、走り去った。


 ジルの呼吸はどんどん荒くなる。

 鮮血が地面にも滴り落ちる。


 ライ・カーンという脅威が去った今、自分の存在はもう必要ないだろう。

 もう全て終わったのだ。


 イリーナは皇女、自分は寄る辺の無い身の上で、重ねてきた罪は数知れない。


 彼女と自分が結ばれることはない。


 ジルは建物の壁に(もた)れ、そのまま地面に座り込み、ゆっくりと目を瞑る。


 これでいいんだ……


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