罪人たち
裁判から1週間が経った。
イリーナはその間に自らにかかっていた国家反逆罪の再審も行い、晴れて無罪の身となり宮殿に舞い戻っていた。
一方、ライ・カーンは連日に及ぶ取り調べを受け、証拠品の数々を前に言い逃れもできず、宮殿の地下牢に拘束されている。
『聖水』に関する詳しい鑑定も行われ、彼が処刑台から逃れることはできないだろう。
地下牢の前に、一人の青年が立ち止まる。
長い白髪に、紫水晶の瞳の青年。
「よく私の前に姿を現せたな」
青年__ジルはライ・カーンと向き合う。
ライ・カーンの顎髭は切り取られ、彼の表情を伺い知ることは容易かった。
「皇女に証拠を渡したのはお前だろう?
「言っておくが、その選択はいずれ後悔することになるぞ」
ライ・カーンは顔を大きく歪ませて嗤う。
「私が処刑台に送られた後、お前は一体どうするつもりだ」
その問いかけに、ジルはようやく口を開く。
「あなたの部下として多くの命を手にかけてきた。
全て終わったら出頭し、然るべき処遇を受ける」
ライ・カーンは声を上げて笑った。
「然るべき処遇? 笑わせる!」
「お前が死刑になることはないさ、皇女がついてるんだからな。
お前はこれからものうのうと生き続ける! その罪を背負いながらな!」
ライ・カーンは立ち上がり、ジルに近づく。
「果たしてお前はその罪の重さにまともに向き合うことができるのかね?」
「大人しく私に従っていればよかったものを、馬鹿な奴め!」
十余年をこの男のために生きてきた。
孤独と寒さ、空腹に苛まれていた自分に手を差し伸べ、食事と住む場所と、名前をくれた男。
読み書きを教わり、学問や体術など、様々なことを教わった。
自分は確かに、この男を誰よりも尊敬し、慕っていたはずだった。
あの日の男と、目の前にいる男は、本当に同じ男なのだろうか。
「あなたに聞きたい」
ジルは問いかける。
「どうして俺に『蝕むもの』と名付けた」
「適当に名付けた名前だ、覚えているわけないだろ」
ライ・カーンは吐き捨てるように答える。
それを聞いたジルは目を伏せる。
そろそろ看守が見回りに来る時間だ。
もう、この男と話すことは何もない。
ジルは二度と男と目を合わせることはなく、別れの言葉も言わず、その場から立ち去った。
ライ・カーンは檻の外を覗き込み、去っていくジルの後ろ姿を見つめる。
中年の男の黒い瞳は、星ひとつない夜の色をしている。
吸い込まれるほど深い闇の色だ。
だが、その色はどこか紫がかった色にも見えた。
「お前は誰よりも私に似ていると思った……」
「だが、それはとんだ勘違いだった」
その言葉がジルに届くことはなかった。




