魔導士断罪
「父君に仕えていたお前は、父君の持病の治療と称して『聖水』を与え続けた。
それは一時的には病が緩和されたように見えるが、少しずつ身体を蝕み脳を溶かし、やがて死に至る毒……」
ルイは続ける。
「お前は父君の病を治しているように見せかけて、人々から信用を得た……最初からそれが目的だった」
「姉上が私が皇帝代理に就くことを阻止しようとしたのは、お前の謀りに気付いたからだ」
「次にお前の餌食になるのは私だったから」
「姉上は僕を守るために自ら命を……!」
ルイの瞳から一粒の涙がこぼれ落ちる。
ライ・カーンはそれを見逃さなかった。
ライ・カーンはゆっくりとバルコニーから降り、原告席のルイに近づく。
「皆様、幼い皇太子は父君と姉君を同時に失い気が動転しているのです、耳を貸してはなりません!」
心神喪失状態の幼い皇太子の虚言。
ルイの決死の告発に、まともに耳を貸す者はなかった。
この異常な皇太子が、皇帝として公務を全うできるとは誰も思わないだろう。
だが、それは覆される。
バンッ!
裁判所の扉が力強く開かれる。
「ルイ、よく頑張ったわね。さすが私の弟だわ」
艶やかなハニーブロンドの髪に、煌めきを放つルビー色の瞳。
白くきめ細やかな肌、大きな瞳とバラ色の唇は小さな笑みを湛え、その様子は宗教画さながらだった。
プロメシア皇国の皇女・イリーナ・アリフレート・トランドがそこにはいた。
「姉上!」
「イリーナ!?」
イリーナの美しさに皆が息を飲み、一度は静寂が訪れるも、すぐに場内は狂騒に飲み込まれる。
「あれは本当にイリーナ皇女なのか」
「いや、あんな美しい人が二人もいてたまるか、」
「死んだのではなかったのか、」
「一体どういうことだ……」
皆口々に言い合う。
「な、なぜだ……なぜお前がここに……!?」
ライ・カーンも驚きを隠せず、声を震わせる。
(あの毒で、生きていたというのか……?)
イリーナは、ルイのいる原告席へ向かう。
(あの生意気な佇まいは、かつての皇女そのもの……
やはりあの皇女は替え玉だった……? だが姿形は全く一緒……)
「私の裁判と聞いていたから来たのだけど……違ったみたいね」
イリーナは裁判所内を見回し、声を張り上げる。
「ルイ皇太子の証言に関わる証拠品を提示いたします!」
それは『聖水』の配合書だった。
「これは『聖水』の配合書です! 暗号化のため古代言語で書かれております!
アミレイ司法官! あなたは古代語学を学ばれていたはず、この書類に目を通し、内容を確認いただきたい!」
司法官はイリーナから渡された配合書に目を通す。
しばしの間書類を見つめた後、
「確かにこれは何かの配合書です……」
「ここに記述をされている効果や症状はアリフレート皇帝陛下の生前の状態と一致する部分もあるように見えます。筆跡と合わせて、詳細な翻訳を行うために鑑識に回す価値はあるでしょう」
それを聞いたイリーナは続ける。
「さらなる証拠がライ・カーンの寺院の地下の隠し部屋にあります! 至急兵士を向かわせ、調査を要求します!」
「全てでまかせです! いや、あの女は皇女を騙る偽物です!
確かに皇女は礼拝で……!」
皇太子と皇女から告発された男に、味方する者はもう誰もいない。
ライ・カーンはすぐに衛兵に引き渡され、その日のうちに寺院の調査の手配が行われた。
すでに証拠の隠滅が図られている可能性も高いが、あの莫大な量の研究資料や設備機器を短期間で全て片付けることは難しいだろう。
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