死者の裁判
「皇太子の様子はどうだ」
ライ・カーンが部下に尋ねる。
「やはり状態は変わらず……おそらく裁判への出席は難しいかと思われます」
死亡したイリーナ・アリフレート・トランド皇女の裁判。
死者への裁判は、この世界では珍しいことではない。
罪を犯した皇族が死亡した時、その罪の重さによって皇族として葬られるか、罪人として荼毘に付されるかを決めるための裁判である。
荼毘に付された者の魂は還る場所を失くし、永遠に黄泉の国を彷徨うという言い伝えがある。
この裁判も、反逆を起こした上、最後は自殺という最大の禁忌を犯したイリーナを皇族として葬り魂の安寧を認めるか、そうでないかを決めるために召集されたものだった。
とんだ茶番だな、
ライ・カーンは二階のバルコニーに設置されている皇帝専用の座席のすぐ側に用意された椅子に腰をかけ、頬杖をつく。
計画が二転三転してしまったが、皇女の死が皇太子には良い見せしめになった。
かつては自分に反抗してきたものの、今ではすっかり元通り……いや、心神喪失状態で廃人同然だ。
姉の死がそんなにショックだったのか、飲まず食わず、ろくに眠ることもせず、ただ一日中部屋に篭って蹲っているそうだ。
医者が栄養剤を投与して延命はされているが、日に日に衰弱しているのは明らかだった。
死なれる前に、『聖水』を使って完全な阿呆にしてやるつもりだ。
その方があのガキも悲しい思い出を忘れられて幸せだろう。
ジルカントも、イリーナ亡き今、わざわざ行動を起こそうとはしないだろう。
そもそも奴が私を告発することなど不可能だ。
奴が私を告発しようものなら、逆に奴が今まで行ってきた数多の殺人行為を告発してやればいい。
心残りは、聖堂で起こった騒ぎのせいでイリーナの死体をその後確認ができなかったこと。
『揮発性が高く致死性の高い毒を飲んだ』という噂のせいでイリーナの死体は隔離処置され、その生死確認をした自分も昨日まで自室を出ることを許されなかった。
口からでまかせで騒ぎを起こした女の調査もさせているが、足取りはつかめていない。
だが、確かに自らの目で彼女の死を確認した。
あの毒を飲んで無事でいられるはずもない。
裁判所は貴族たちや政治家、司法官たちでひしめき合い、彼らの会話内容は満場一致で「自殺という大罪を犯したイリーナは罪人として燃やされる」だった。
間も無く裁判が行われる。
残す参会者は皇帝代理のルイのみだ。
裁判開始時刻になってもルイが現れない場合、裁判はルイ抜きで行われる手筈となっている。
裁判の開始時刻になった。
それと同時に、扉がゆっくりと開かれる。
人々の視線が扉に集まる。
ルイだった。
先程までのざわめきが嘘のように、静寂が広がる。
俯いており、表情はわからない。
ルイは皇帝専用の座席……ではなく、原告席ヘ立った。
「ルイ皇太子……?」
ライ・カーンは困惑の表情を浮かべる。
「皆様にお集まりいただいたのは、姉上の裁判ではございません」
ルイは叫ぶ。
「私はこの場において魔導師ライ・カーンを告発します!」
その言葉に裁判所内の全ての視線がライ・カーンに集まる。
「!?」
ライ・カーンは立ち上がり、バルコニーから身を乗り出す。
「ライ・カーン! お前の真の目的はこの私を傀儡とし、プロメシア皇国を支配すること!
我らが父君であるアリフレート皇帝陛下の病を悪化させ、命を奪ったのはそなたであろう!?」
「ルイ皇太子、これはイリーナ皇女の裁判です。一体何をお考えになっているのですか?」
ライ・カーンは平静を装う。
ここで取り乱してはいけない。
ルイはライ・カーンを睨みつける。
その目は、表情は、空気は、とてもあの気弱な12歳の少年のものとは思えぬほど力強く、深い憎しみと悲しみに満ちていた。
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