逆襲のイリーナ
「もうあなたは、死を恐れる必要はありません」
ジルがイリーナに告げる。
「死体を偽装しました」
ティアが続ける。
「致死性の高い毒を飲んだ死体です。
おいそれと誰も近づこうとしませんし、いい感じに腐っていたのを選んだので気付かれることはないと思います」
二人はなんてことのないように話すが、かなりすごいことをしているのではないか。
「つまり……?」
イリーナが聞き返す。
「つまり、あなたはもう皇女ではない」
ジルが告げる。
「あなたが望むなら、普通の人間として生きる選択肢もあります。
多少の苦労は強いられると思いますが、生活のことは私がなんとかします」
「私の生まれ故郷で穏やかに暮らしましょう!」
二人がついていてくれるのか。
それは心強い。
(でも、ルイはどうなるの……?)
そう言いかけた瞬間、
ドクンッ
イリーナの心臓が激しく脈打つ。
思わず胸を抑える。
「イリーナ!?」
二人が心配そうにイリーナを見ている。
だが、すぐにイリーナは顔を上げる。
「ルイはどうなるの……?」
イリーナは先ほどとは打って変わり、低く力強い声で語りかける。
ライ・カーンをこのまま放置すれば必ずルイに危害が及ぶ。
敬愛する父をおもちゃにされ、無実の罪で幽閉され、誰よりも大切な弟の命すら奪おうとした。
最愛の人であるジルカントを支配し、利用し続けた。
「私が死んだということになっているなら、裁判が行われるはずだわ」
イリーナの声音は明らかに変化している。
ルビー色の瞳は力強い眼差しで、まるで燃えたぎる炎のようでもあった。
「裁判?」
ティアが聞き返す。
「この国の習わしで、国家反逆罪を犯すか、神に背いた皇族は死後に裁判を受けるの。
王族として葬られるか、罪人として火あぶりにされるか決めるためよ」
イリーナは自分が知らないはずの知識がすらすらと口から出てくることに困惑をする。
(そうなの? 私、そんなのがあるって今知ったよ!)
「ジル、あなたが死体の偽装を提案したのでしょう?」
ジルは硬い面持ちでイリーナを見つめる。
その目には警戒の色が浮かんでいる。
イリーナの変貌、あるいは以前のような堂々たる振る舞いに戻ったことに違和感を覚えているのだろう。
「私は反逆行為に飽き足らず、自ら毒杯を飲んだ。きっと私は火あぶりとなる。
だから、死体の偽装が容易いと判断した……そうでしょう?」
もう一人の『イリーナ』がイリーナを突き動かす。
(あの、変な夢は……夢じゃなかったの?)
「私はイリーナ・アリフレート・トランド、この国の皇女よ」
イリーナはベッドから下りる。
この国を守るために、ライ・カーンを野放しにはできない。
「私の裁判で、決着をつけてあげるわ。ライ・カーン……!」
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