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計画の変更


 ジルは駆け出す。


 その目はナイルズをこの一撃で仕留めるという強い意思が宿っていた。


 ナイルズもみすみすやられようとは思っていない。

 剣を構え、ジルを迎え討たんとする。



 ジルとナイルズの(つるぎ)(まじ)わる。



 倒れたのは……ナイルズ。


(他にも手を打ってくると思ったが、まさか真っ向から立ち向かってくるとは……)


 幸か不幸か、急所に当たったものの即死はできなかったようで、ナイルズは口から血を吐きながら荒い呼吸を繰り返す。

 放っておけば、間も無く力尽きて亡くなるだろう。


 とどめを刺すために、ジルはナイルズに近付く。

 楽にしてやろう、という慈悲ではなく、すぐにナイルズの遺体を処理し、この場を離れるためだった。


「ジルカント……お前は愚か者だ……」


 ナイルズは血を吐きながら、ジルを嘲笑する。


「先生は、計画を、変更する……」


 その言葉に、ジルは動きを止める。


「殺されるのは……皇太子だ……」


「!?」


 ナイルズは息も絶え絶えの中で、話し続ける。

 呼吸さえ苦しい状況の中で絞り出される声は、彼の言うことが全て真実だと物語っている。


「ここ数日の皇太子は反抗的で……だが皇女の方は……牙を抜かれたように穏やかで、まるで別人のよう……」


「皇太子が死に……皇女が女皇帝に……それが新たな、計画」


 ナイルズが咳き込み、真っ黒な血の塊を吐き出す。


「ジルカント……お前が、羨ましかった……」


 ナイルズはそう言い切ると、全身の力が抜け、息を引き取った。 


「……」


 彼の最後の言葉の意味はわからなかった。

 だがナイルズもまた、ライ・カーンに疑問を持っていたのかもしれない。


 ジルは彼のために十字を切り、神に祈りを捧げた。


 それを終えるとすぐにナイルズの遺体を寺院から運び出し、処理をする。



 これで目撃者はいなくなった。

 少なくとも時間稼ぎはできる。


 ジルは大きくふらつく。

 麻痺していた痛みが少しずつ戻ってきて、自分がひどい出血をしていたことを思い出す。


 日は落ちて(あた)りは暗くなっている。


 手近なもので応急手当てを行い、すぐに出発をする。

 向かうのは宮殿。


 隠し通路で脱出できたのだから、逆に侵入することもできるはずだ。


 ライ・カーンが計画を変更し、イリーナではなくルイを手にかけようとしている。

 それが真実ならばルイが危険だ。


 確かに自分はイリーナのために戦う、と言った。

 だが弟のルイが死ねば、イリーナはきっと悲しむ。


 かつて彼女は、自分には弟がいること、今どうしているか心配していることを話した。

 その時は「一度は手をかけようとしていたのに?」という疑問を持った。


 だが、ルイの話で彼女の真意がわかった今、もう迷うことはない。


 彼女の悲しむ顔は見たくない。

 なんて単純な理由だろうか。


『お前と皇女が結ばれることはありえないんだぞ?』


 ナイルズの言葉が不意に頭を()ぎる。


 それがどうした。


 もう一度、頭の中でナイルズに(こた)える。


 イリーナと出会ったから、自分は初めてライ・カーンを疑った。

 彼に逆らい、戦おうとしている。


 世の中には『おいしい』という感覚があることや、『安らぎ』や『癒し』があることを教えてくれたのは彼女だ。

 彼女に出会ったから、自分は『生』を得た。


 この汚れきった人生の中で、今が一番、自分が生きていることを強く感じる。


読了ありがとうございました。

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