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第1話「青春再取得プログラムのご案内」

 アラームが鳴る数分前に目が覚める。胸に手を当て、激しい鼓動が収まるのを待つ。


 また同じ夢だ。高校1年生、放課後の教室。友人と模造紙の上に座り、マーカーペンを回しながら話をしている。廊下から、隣のクラスの女子が通り過ぎるのが見える。気になる女子がいないか、一瞥をくれる。文化祭準備の一幕。


 同じ夢を繰り返し見てしまうのは、やはりこの光景に執着しているからだろうか。あの頃に帰りたい。そんな風に言えたら、どんなに良かっただろう。


 俺にはこのような経験は、たった一度もない。


 真田悠人、19才。

 中学の途中から不登校になり、通信制高校をどうにか卒業。現在はアルバイト生活を送っている。

 平凡、いや、平凡以下の人生。

 手に入れられなかったものは数え切れないほどあるが、その中でも諦め切れないものがあるとすれば、一つしかない。


 青春。学生時代の部活、行事、同級生との恋愛、放課後の友人との他愛もない雑談。

 これらの経験は全て、俺にとっては空想上のものでしかない。


 最初は、こんなものはいらないと思った。

 くだらないことに時間を使う必要はない、不要なストレスを抱えるくらいなら一人で過ごした方が良い。

 だが、気がつけば青春小説や青春ドラマ、学園アニメに心惹かれ、夢中になっていた。

 未経験だからこそ、俺は誰よりも青春に憧れるようになっていった。


 それでも、現実はフィクションほど美しくない、そう思って諦めようとしてきた。

 充実した学生生活を経験していようがいまいが、青春もの創作物の世界はやはり空想上のものでしかない、と。

 しかし、最近になって今更のように高校生活の夢を見るようになった。


 通信制高校を卒業し、年齢的にももう後戻りすることはできない。高校生活が叶わぬものとなってから、

 その夢を見るようになるとは、皮肉なものだ。

 経験もないのにやけにリアルな夢であることに、腹が立つ。

 青春ドラマやアニメを見過ぎたせいだろう。理想的な高校生活のワンシーンは、いくつでも思い浮かべることができる。




 後味の悪い目覚めの後、支度を済ませ玄関に向かう。9時から始まるアルバイトには間に合いそうだ。

 靴を履き、ドアを開け、外に出る。未だにこの瞬間に最も憂鬱を感じてしまうのは、長いひきこもり生活の後遺症だろう。


 歩き始めようとしたとき、郵便受けから一通の手紙がはみ出していることに気づく。

 いつもならチラシや公共料金の知らせくらいしか届かないのだが、明らかにチラシとは違っていた。


 美しい青色の封筒。

 裏返すと、差出人は「国立研究開発法人 青春研究開発機構」とある。


 聞いたことのない名前だ。

 うさんくさい名前の中に、思い入れの深い言葉が入っている。


「青春・・・研究開発機構?」


 いたずらか詐欺の類だろう。そう思ったと同時に、「青春」という言葉にどこか心惹かれている自分に気づく。

 封筒に厚みはなく、おそらく中身は手紙一枚程度だろう。

 封筒は鮮やかな薄青色で、しっかりとした材質をしている

 いたずらにしては手の込んだ封筒だ。


「やばい、遅刻する」


 腕時計を見ると、8:45。バイト先までは歩いて10分ほど。時間にあまり余裕はなかった。


 俺は封筒を鞄にしまい、小走りでバイト先へ向かった。




 バイトが終わり、午後6時半前。自宅に着き、鍵を開ける。

 カバンを置き、着替えをすませ、コンビニで買った弁当を温める。


 ベットに腰を下ろし、スマホを眺めていて思い出す。

 読みかけの小説の続きを読もうと思っていたのだ。

 先週発売し、すぐに購入した春見ハル先生の「木漏れ日さす校舎、君とすれ違う」の第7巻。

 主人公と同じクラスの女子との甘酸っぱい恋愛模様を描いた青春小説の名作だ。


 小説を取り出そうと鞄を開き、底の方にチラリと青い物体が目に入る。


「あっ今朝の封筒」


 忘れていた。今朝ポストに届いていた封筒。カバンに押し込んでいたのだった。


 少し端の折れた青い封筒を取り出し、中身を取り出す。


 封筒の中には、1枚の手紙が入っていた。

 その手紙は、以下の題で始まっていた。




「青春再取得プログラムのご案内」









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