黄金色の丘
「まだ歩ける?」
日が傾き始めた頃、僕はフィオナに話しかけた。
かれこれ村から15キロぐらいは歩いたけれど、最寄りの街であるエベルトンまではまだ5キロ以上ある。
あわせて20キロなら1日でたどり着けると思っていたけれど、日本の舗装された道とは勝手が違う。
このあたりはいわゆる荒野で、見渡す限りイラクサに覆われた丘が幾重にも連なっている。
春になればピンクの花をつけるというイラクサはだいたい腰丈ぐらいで、踏み越えて行くこともできなくはないけれど、素直に道を進んだほうが楽なことに変わりはなかった。
僕はこの2ヶ月間の農村生活ですっかりたくましくなった。
転生者、イースターだから、いわゆるトレーニング効率がこの世界の住人達とは確実に違うのだとは思う。
フィオナもさすがは農家の娘だけあって健脚だけれど、今の僕ほどではないし、結構な重装備だから息が上がり始めている。
ふと、フィオナが2つ先の丘の木々を指差した。
「あそこまでいければ、郵便馬車に乗れるかも?」
なるほど、一列に連なった木々は街道を示していた。
まもなくして街道にたどりついた僕らは足を休めながら馬車が通り掛かるのを待ったが、今日はもう行ってしまったのか、なかなか来る気配がない。
「ちゃんと馬車見ててね?」
フィオナはそう言うと、イラクサの中にかき分けていった。
別に街道を注視していなくても馬車が来ればさすがに気づくので、フィオナの方を見ていると、イラクサの茂みの中から顔だけだしてこちらを睨んでいる。
「あ、はい……」
事情を察した僕は目を背けた。
夕日が丘の向こうに沈もうとしていた。
このまま日が暮れてしまうことは心配だったけれど、黄金色に染まっていくイラクサの丘の中で用を足すフィオナが神秘的にさえ見えてしまった。