フィオナ
そうこうしている間に約束の2ヶ月まであと1週間となった。
1週間は元の世界と同じ7日だけど、1ヶ月が一律28日だったり、1年が13ヶ月など微妙に違うところもあるみたいだ。
そういった事も含めて、農村での生活の中でこの世界のことをかなり学ぶことが出来た。
特に驚いたのは物理特性が微妙にちがうこと。
水の入った鍋を火にかけても必ずしも沸騰するとは限らない。
元の世界でも気圧によって沸騰しづらいとかあった気がするけど、こちらの場合は火の精霊が関わってくるらしい。
水の沸騰も任意にコントロールできないとなると、蒸気機関の発明は当分おあずけなのかもしれない。
なんにしても、元の世界の知識はあまり役に立たない気がするので、いろんなことを聞いて学んだ。
来週、お金をもらったらどうしようか。
小川のほとりで釣りをしながら、これからのことをぼんやり考えているとフィオナがやってきた。
初日のテーブルで隣に座っていた三編みの少女だ。
目鼻立ちは整っているものの、どこか垢抜けない田舎の娘で同い年の15歳。。
イースターの僕に興味があるらしく、ずっとつきまとっている。
恋愛に疎い僕でも好意を持ってくれてるのは見てわかる。
もしかしたらキスをしても拒まないかもしれないけど、僕にそんな度胸はないし、それ以前に姫宮さんと再会してホワイトデーをこなすまで浮気はできない。
「ねえシュナイダー!今日はエメットと一緒じゃないの?」
「エメットなら今朝、友達引き連れて馬車で街に行ったよ」
この村では閑散期になると3交代で長期休暇をとる。
「いいなぁ~~」
「フィオナの休暇はいつなの?」
「三畝式で休めるのは男だけだよ」
フィオナの言う三畝式というのは、3つの畑のうちひとつにシロツメクサを植えてローテーションで休ませるというこの村で採用している農法。
たしかに3交代の休暇と似ている。
「せっかく農奴もなくなって、女も騎士になれる時代になったのに、この村は閉鎖的すぎると思う。」
ふてくされながらも、川べりに腰掛けた僕の横にピッタリくっついてくる。
エメットという邪魔者がいなくて嬉しいのだろう。
僕はといえば、気のないふりをするので精一杯。
とりあえずしばらくは立ち上がれない。
農夫のズボンはゆったりしているから、今立ち上がったら股間の膨らみがバレてしまう。
「そうだシュナイダー!なんでイースターってバレたか分かってる?」
予期せぬ話題に少し驚いたし、それには興味があった。
「どこから来たか言わなかったから?」
「ううん、シュナイダーってよく『この世界では』って言うじゃない?それって別の世界を知ってるってことでしょ?」
「あああああああ!!」
言われてみれば納得するしかない。
「でも悪い人にはみえないし、シュナイダーがイースターとしてどんな伝説つくるのかみんな楽しみにしてるよ」
「伝説……ねぇ。僕にもわかんないや。今の僕はただの異世界迷子の居候だしね。」
「でね?シュナイダーにお願いがあるの」
フィオナが上目遣いで精一杯かわいこぶってみせる。
正直可愛すぎて理性がやばい。
「な……なんだろ?僕にできること?」
うろたえながら聞いてみると、フィオナの「お願い」は予想外のものだった。
「来週ここを発つ時、わたしもシュナイダーの旅に連れてってほしいの」