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イースター

農家での手伝いと言っても都会育ちで農業の経験はないし、デフォルトスキルもないらしく足手まといにしかならなかったので、主に子守を担当することになった。


子守が1人いるだけでもかなり助かるらしい。

なんとなく覚えている絵本や昔話のレパートリーを話してあげるだけで子どもたちは大喜びしてくれる。

テレビもスマホも漫画もない世界だから娯楽には飢えてるんだろうね。

僕だって続きが見たいアニメがたくさんある。


吟遊詩人にでもなったらどうかとも言われたけれど、覚えているレパートリーが尽きたら最後。

オリジナルの話が作れる才能には自信がない。


子どもたちが昼寝に入るとまた農作業に駆り出され、夜は農機具の手入れをする。

そんな日々が一月ほどつづいた。


すっかり農民生活になじみつつあったけれど、クラスメイトのことはずっと気になっていた。

姫宮さんはもちろんのこと、大はどうしてるだろうかとふと考える。


あ……そうか!!


縄をないながら大のことを考えていた時、ここしばらく感じていた違和感にやっときづいた。

異世界転生というわりには、ここまでまったく剣も魔法も出てきていないし、ドラゴンはおろかゴブリンすらでてきていないんだ。


チュートリアルにしては長すぎやしないだろうか。


僕は今の生活も悪くないと思っているけれど、もし大も同じような境遇だったらさぞかし拍子抜けでストレスをためてるだろうなと思った。


「シュナイダーは農夫の才能があるな」


数軒先のエバレット家の三男坊、エメットがそう切り出した。

肩まである長い茶髪を左右に分けた男の色気漂う美丈夫は、いつも農作業を教えてくれている。


「そうですか?」


「ああ、お世辞抜きにたいしたもんだ。飲み込みが早い。」


ひょっとすると転生時にもらった才能のなかに農業があるのかもしれない。

僕がやっていたネットゲーム「ソード&ギアス」のように、トレーニング回数X才能でスキルレベルが上がる世界なんだろうな。


もちろん、元の世界もそうだったんだろうけど。


「そういえばエメットさん。【イースター】ってなんですか?」


「誰から聞いた?」


「いえ、ハスキンスさんとこのお坊ちゃんが言うんですよ。僕がイースターだって。」


「【東からきた異邦人】って意味なんだけどな。いい意味も悪い意味もある。」


エメットさんがいうには、100年に一度どこからともなく現れた異邦人が歴史を動かすのだという。

かつてシノスケという剣士が「はるか東から来た」と言ったことからイースターと呼ばれるようになったらしい。


間違いなく転生者だし、日本人っぽい。


「悪い意味っていうのは?」


「ああ、イースターはおとぎ話の言い伝えでしかないけれど、いいイースターもいれば、悪いイースターもいる。どちらにしてもイースターは常人離れした能力をもってるから恐れられてたりもするんだよ。」


たしかに……命が20個あって才能をギフトされてるんだもんな。

悪いことに使おうと考える人がいたらヤバそうだ。


「もし僕がそうだとして、なになしらの才能が開花したとしても、悪事を働くような度胸はないですよ。」


「ははっ!常人離れした農夫になって、この村を助けてくれるっていうなら大歓迎だけどな?」


エメットさんはそう笑うと、急に神妙な顔になって言葉を続けた。


「でも、自分がイースターかもしれないって話は他所でしないほうがいいぜ?間違いなくしょっぴかれる。俺らも薄々気づいちゃいるが役人には言わないでいるんだ。」


僕は思わず息を呑む。

気付いていたのに何も言わずに働かせてくれてたなんて、感謝の言葉もみつからない。


実際、このままだとエメットさんの言う通り「常人離れした農夫」としてこの地に骨をうずめかねないぐらいの勢いなのだけど……

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