はじまりの村
気がつくと、僕は粗末なベッドの上にいた。
いびつな木造家屋の屋内は薄暗く、お世辞にも衛生的とは思えなかった。
光が差し込む木窓は無駄にごつい蝶番でとめられていて、高級品なのかそもそも存在しないのか窓ガラスはなかった。
重い窓をあけると、目の前には農村が広がっていた。
ファンタジーのお約束ともいえる西洋風の古民家がチラホラと見える。
木窓をあけたときに見えた自分の手は妙に細く白かった。
今どんな姿をしてるんだろう?
窓際にあった水桶を覗き込んでみると、そこには美少年とは言い難いものの、茶色がかった金髪の白人少年が映っていた。
気に入らなかったらリセマラできるんだろうけど、そこまで不満はないし、もとよりは多少マシな気もする。
今日からこの姿で生きていくのか。
「おや目が覚めたのかい?歩けるなら下までおいで。ちょうどご飯にするところだよ。」
感慨に浸っていると、窓の下にいたおばさんから声をかけられた。
日本語ではなかったけれど、すんなり理解できた。
言語スキルは最初からあるらしい。
他にどんなスキルを「ギフト」されたんだろう?
異世界転生もののお約束、スキルウィンドウはなんだろうか?
ブツブツ言いながら階段を降りると、木造だった2階とはうってかわって1階は石造りだった。
雑な作りの長テーブルに食事が並べられると農夫たちが次々と帰ってくる。
「おう坊主!気づいたか?どこから来たね?」
「あわてないでいいぞ?飯食いながらゆっくり話してくれ。」
気さくな農夫たちはよそ者の僕に興味津々なようだけど、異世界転生について話すのは得策ではなさそうだ。
なにか適当な設定を作らなくては……。
空いた席に座り、お祈りを真似する。
さて食べようかと思ったところで問題が発生。
食器がとにかく汚く、スープにもゴミが浮いている。
とりわけ潔癖症ではないつもりだけど、現代日本から来た自分には罰ゲーム級。
食中毒を心配するレベルの不衛生さにドン引きしてしまう。
でも、この世界では普通なのだろうから、今のうちに慣れなければ飢え死んでしまう……。
意を決してスープを口に運ぶと、隣の席では三編みの少女が僕の話を楽しみにして目を輝かせていた。