転生
ついさっきまで学校にいたはずだったのに、気がつくと真っ白な世界にいた。
壁も天井もなく、真っすぐ立てているのが不思議なぐらい床も目には見えないひたすら真っ白な世界。
僕の他にも3クラスぶん約100人ぐらいの生徒がいて、突然の異変にざわついている。
「瞬! お前もいたのか?」
人並みをかきわけて近づいてきたのは幼馴染の麻黄 大だった。
「どこなんだ?ここは!」
そんなことを聞かれたって僕が知ってるわけがないし、たぶん考えるだけ無駄だ。
パニックを起こして泣き出した女子もいたけど、僕は案外落ち着いていた。
「漫画だったら描くの楽そうな背景だね」
そんな気の抜けた感想しかでてこなかった。
「お前ってそういうとこあるよな……」
大は呆れながらも周囲を見渡すと、ため息を付いてうなずいた。
「たしかにこれは、イベント発生まで待つしかなさそうだ。」
こういうときにまでゲーム的な発想がでてくるのは大らしいが、しばらくすると金髪長髪で白い服を来たイケメン外国人がどこからともなく現れた。
「あ~、お静かに」
金髪イケメンは流暢な日本語で話した。
「はい!あんた神様?」
真っ先に手を上げて発言したのは大だった。
「とんでもねえ。わしゃ神様だよ。」
金髪イケメンはまさかの往年のギャグをかましてきたけど、誰も笑わなかった。
むしろあっけにとられていた。
それはそうだ。
こんな状況で笑えるわけがない。
「おかしいな……鉄板だと聞いていたんだが……。」
本当に神様だとしたらかなり頭が悪いな。
「もしかして僕たち死んだんですか?」
直球で質問してみてみる。
「あ~……はい、そう…なりますね……」
身も蓋もない返事に騒然とする。
「せっかく高校受かったのに!」
そう叫んだ女子がいたように、僕らは卒業式を控えた中3だった。
まさにこれから人生を謳歌しようという年齢。
みんなそうだろうけど、現世でやりたいことはたくさんあった。
何人かのクラスメイトは一緒だけど、家族とは突然の別れになってしまった。
「父さん大丈夫かな?」
ふと父親の顔を思い出す。
今朝は登校間際に叱られて気分がよくなかったけど、息子だからこそ厳しさの裏にある情に厚い父の涙もろさはよく知っている。
それを考えると胸が痛い。
それに、なによりも気がかりなのは再来週のホワイトデーだ。
今年、僕は生まれてはじめてバレンタインをもらった。
モテとは無縁だと思っていた僕にとっては晴天の霹靂。
そんなこともあって特定の女子に恋愛感情などもったことがなかったから、贅沢にも返事をホワイトデーまで保留にさせてもらっていた。
中1で初めて同じクラスになった姫宮さんは「名前負け」とからかわれたりする地味な女子だけど、僕にはもったいないぐらい可愛い。
そうだ…姫宮さんも来てるのかな?
あたりを見回したけど、すぐに見つけることはできなかった。
その間も「自称神様」は状況説明をしてくれていた。
2つの世界が接近したことによって時空に亀裂が入り、その亀裂に巻き込まれたのが僕らだったということ。
この神様には僕たちの世界の物理法則に干渉する権能がないため、元の世界に生き返らせることができないということ。
今生を全うできなかった若い僕らの魂をあちらの世界で100年間預かるつもりだということ。
そこまで聞いたところで、隣で鼻息を荒くしていたのは大だった。
大が何を考えているのは僕にも分かった。
「つまり、異世界転生……ですね?」
神様が僕の質問にこくりとうなずくと、大は拳をつきあげた。
「よっしゃーーー!王道展開キタコレ!!」
「ただ転生するだけでは申し訳ないので、20個の命をさしあげます。100年間で使い切るには多いでしょうけれど、好きなタイミングで生まれ変わることができます。生まれ変わる度に主神から才能や加護などををギフトされますが、リクエストはできませんし、記憶以外を引き継ぐこともできません。また……」
まだ半数近い生徒たちがパニックを起こしたまま泣いたり怒ったりわめいていたので、神様の説明はいまいち聞き取れなかったけど、人混みの向こうに目当ての横顔を見つけた僕は「大と姫宮さんが一緒ならいいか」と覚悟を決めていた。
「要するに20連リセマラガチャってことだな……頑張ろうぜ?」」
大は早くも異世界攻略に心を踊らせていた。
「それではみなさん、こちらの世界へようこそ。素晴らしい人生をお過ごしください。」
神様がそう言うと、真っ白だった世界は青くなり遥か下には大地が見えた。
落ちる心配をするまもなく僕らの身体は小さな発光体になり、世界各地へと飛散した。
新しい世界を上空から見下ろしながら僕は困惑する。
姫宮さんどころか大ともはぐれてしまった。
「どこに転生するかわからないけど、当面のメインクエストは2人を見つけることだな」
気がつけば僕も大のようなことを考えていた。