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VS潜水艦3 / 敵国のお姫様をスカウトした

「敵国のお姫様といっても、まあすることは大して変わらないわよね」


勧誘のあと、少女のカミングアウトを受けて。閉鎖された船室で。

彼女のこと、なんと呼べばいいのだろう。

『マティアス』? 『ドゥちゃん』?


どれが名字かと言えばマティアスだろうし、この世界ではイリス家のイリス様、ああでもイリス様は長女で跡継ぎだから姓と名が一緒なのか。


「何はともあれ、まずは名前ね。偽名が必要かな。レイン、どうすればいいのかしら?」

「偽名は、呼ばれ慣れた本名と近いものが良いとされていますね」

「それってバレないの?」

「名前から連想でバレる危険はありますが、それより呼ばれてとっさに反応できないほうが怪しまれるんです。だからリスクとメリットを鑑みて、偽名は本名に近い方が良い」


なるほど。


「あなた、これまでの人生ではどういう風に呼ばれていたの?」

「第二王女様」


とりつく島もない簡素な呼び名、と思うが、そういえば大国アルセイアでも『第五皇女様』は名前がない『第五皇女様』だった。


「あるいは予備の巫女として『第二の少女様』と呼ばれていたわ」

「マティアス家だからマで始まる名前とかにする?」

「呼ばれ慣れていないなら、意味ないですよ」

「他にはないかしら?」


もっと名前らしいものを。

そう問いかける私の瞳を、お姫様は覗き込む。


「フラウ」


ぽつりとつぶやく。


「私の幼名よ。あまり、呼ぶヒトはいなかったけれど」

「フラウ。良い名前ね」


心なしか、少女の発音も柔らかかった。

王家の貴人にとって幼名というのは親しい仲だけで呼び合うもので、そういう子供の頃の思い出に引きずられたのだろうか。


責任重大だ。

私が命名しろとは誰も言っていないけれど、引き取ると言ったのは私なのだから、と思う。


それに、柔らかな発音で聞かされた幼名を偽名に落とし込むとき、いいかげんな気持ちでしたくはなかった。

しばし考えて。


「フーカ」


美しい風花の舞う冬の光景。冷たい風が鼻先をくすぐる不思議な痛みを少しと、爽やかで清潔な香りを思い出す。


「あなたの名前はフーカにしましょう」


----


「あなたが気高く高潔な人物であることは理解しています」


死を覚悟してイリスヨナに単身乗り込んだフーカが、命を惜しんで自分を曲げるとは思えない。

お互い生き残るために、なんて脅迫まがいのことは言わない。言っても意味がない。


それに、私はフーカと仲良くしたい、仲間になって欲しいのだから。


「私はあなたが欲しい。これから作る人造艦船の乗員、特に艦長以下、幹部となりうる候補生として」


イリスヨナは大国エルセイア側だし、エーリカ様と近すぎる。どうしても大国ストライアの船を敵艦とする事は避けられないだろう。

いずれは敵対する状況にもなるだろう。


だがフーカにそれを強制することはできない。

生まれた国を裏切ることになる。

フーカが家を出た時とはまた違う。

あらためて血族との縁を捨て、見知った顔の相手に刃を向けることができるかどうかを、私は尋ねている。


「私たちは相手の潜水艦の艦名すら知らない。けれど、教えてくれなくてもいい。『敵艦』はイリスヨナがどうとでもします」


別に情報がなくても切り抜けられるだろうと思っている。

だが相手潜水艦の情報がわかれば、より安全が手に入り、とれる選択肢が広がる。


ただ、それはそれとして、フーカの知っているであろう情報は欲しい。

私の問いかけに、フーカは答える。


「『あたし』が決断を保留するような人物だと思っているのじゃないでしょうね」

「よく考えることは優柔不断に直結しません。時間がある時は特にそうです」


拙速は尊ぶべきものだが、即決があらゆる問いの答えではないと、私は考えている。

悩み苦しんで答えるべき問いもあると。

でも今回は、フーカが悩むとは思っていない。


「たぶん、潜水艦『コレッジオ』よ。大国ストライアのコレッジオ国コレッジオ王家が所有する潜水艦の古代戦艦」


フーカは私の誘いに応じ、そして相手の潜水艦について話しはじめる。


「大きな特徴として、コレッジオは同型艦が2隻ある。2隻で1隻の潜水艦なの」

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