VS潜水艦1 / 水面下の敵
ソナー感知した潜水艦を、第一艦橋のVUHDにプロットする。
といっても、アクティブソナーや目視で確認できていないので『この方向のこのあたりにいる』というモヤのような分布図だけれど。
別図では進行方向を台風の進路予想に似せて描画している。
「海底状況は不明だけれど深度は120mほど。パッシブソナーの感度は良いので岩礁や乱流はない平らな海底面と思われます」
所属不明の潜水艦は、深度40m付近を低速で静音航行しながら、イリスヨナ右後方の4時方向から近づいてくる。
相手がこちらに気づいていない、ということはないと思う。
こちらは洋上の大型ミサイル艦で、静音性はそれほどでない。
そして相手は聴音が命の静音な潜水艦。
「まだ遠いですが、魚雷攻撃は可能な距離です。また、もうすぐ対潜爆雷の射程範囲内に入ります。アクティブソナーで位置を確定して攻撃しますか」
「ピンを打ったら、こちらが気づいていることに気づくかも。この距離ではこちらの対潜攻撃より、相手の魚雷のほうが効果的だわ」
ピンの他にも、逃げようとしていきなり増速するとか、前部魚雷発射管を動かして注水音を立てたりすると、相手が気づいて攻撃してくる可能性がある。
「増速できないのが辛いわね」
現在のイリスヨナは鈍足で動いており、通常航行速度になっていない。
というのも、レインの警護であるアリスと飼い竜であるクウに『おつかい』を頼むために、目撃されない程度に沖に近づいて一日ほど停泊した直後で、まだ速度を出していなかった。
潜水艦はイリスヨナの通常航行速度を知らないだろうから、増速すれば逃走に見える。
つまり通常速度に戻すだけで、潜水艦を発見していることに気づかれる可能性がある。
「でも何もしないと敵に都合よい場所から先制攻撃されます。主導権を奪われますよ」
「このままだとそうなるわね。後部魚雷発射管には、海上公試中の新型魚雷が2本と、通常のI種魚雷が1本装填されているけれど」
後部の回転式魚雷発射管は甲板と同じ高さにあって、水面下にはない。
船体を伝わるほど大きな音を立てなければ、攻撃準備が進められる。
掌砲長は一瞬だけ考えてから。
「今から魚雷の抜き差しはするべきでないと思います」
「攻撃用が1本だけというのは辛いかしら」
「むしろ、新型の性能テストには良い条件かと。攻撃は、初動のあとに前方魚雷発射管からで良いかと」
艦内はすでに戦闘配置になっており、前回と違ってミッキも発令所に来ている。
「ミッキ、そういうわけで海上公試中の魚雷は使わせてもらうことになるわ。申し訳ないけれど」
ミッキはうなずいて答える。
「今日の定期検診で異常は見つかりませんでした。状態に問題はありません。使用可能です」
「少し早いですが、発射タイミングを掌砲長に移譲します」
「発射タイミング頂きました」
掌砲長が復唱のかわりに答える。
「よろしく」
「新型の調停は現在のまま予想攻撃位置で。疾走時間は固定値ですし。
それと、前部魚雷発射管も音を立てずにできる準備は進めるべきかと思います。副長にお願いできますか?」
「私は構いません」
掌砲長が監視につくので、副長が前部魚雷発射管室の指揮へ。
私は操艦。といっても、なにも変化を起こさない役目で、つまりなにもしない。
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「相手がこのまますれ違って、離れていった場合はどうしますか?」
「その場合は気づかなかったふりをします。戦闘はしません」
接近されただけなら、イリスヨナのスペック等についてほとんど漏れないし、むしろセンサ範囲を実際より小さく誤解させることができる。
「相手が攻撃色を見せる前の先制攻撃は避けたいの」
私の言葉に対して、レインがこともなげに言う。
「他にだれもいない洋上の出来事です。殲滅してしまえばわかりませんよ」
「それはそうなんだけどね」
実際、初日に撃沈した古代戦艦について、その後なにも音沙汰はない。
無断侵入者をひとり消す、どころではない。
いつ動かなくなってもおかしくない古代戦艦が、洋上で消えても追いかけようがない。
洋上で起こったことを把握するのは難しい。
監視衛星や衛星通信がないこの世界では、特にそうだ。
「とはいえ、イリスヨナには実績というか、前歴がありますからね」
副長が指摘する。
「魔槍の輸送は、表になっていなくても各所に情報が伝わっているでしょうから、活動海域も割れています。イリスヨナの付近で古代戦艦が消えたら、事実はどうあれ疑わしいかと」
「はれもの扱いはされたくないのだけれどね」
イリス様の名誉と自由に影を落とすようなことは避けなければならない。
と、レインが私の顔を覗き込む。
「イリス様のお命が最優先なのでしょう?」
「つねに選択肢がない状況ばかりではないわ」
あなたが一番ではない、とレインに向かって明言するのを避けたのだけれど。
「いいんですよ。弁えてます。レインはわかっていて、ヨナさまのお側にいるのですから」
その程度の気持ちは、レインには通用しない。




