VS激突! 牽引爆雷<あくありうむ>2
「奥の4隻は」
「GEHENAの古代戦艦は動き出すまで無視で良い」
「GEHENAって大国ストライアの? 敵国の舟じゃないですか!」
「聖竜皇国保有3隻のうち動いているのは1隻だけです。ほか2隻は微動だにしない」
「普通の古代戦艦はそういうもんさ。ヨナ様が異常なんだ」
「しかし空母を除く遠征艦隊が集結して古代戦艦1隻に歯が立たないとは」
「提督は古代戦艦の巫女にお会いになられたのでしたか」
「はい。ヨナさんに誘われたので。イリス様の付添として顔を合わせました」
「イリス様と同い年なのだとか」
「たとえ会ったことがある女の子でも、フーカは攻撃を躊躇いませんよ」
「あの作戦部長であれば、そうでしょう」
「伝令! 海防艦『福江<ふかえ>』3番砲身計測温度が120度ライン突破! ほか各艦も続々と警告域!」
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「もう後がありませんね」
スイは『択捉<えとろふ>』艦長席を包む砲撃の中でつぶやいた。
副長が応じる。
「後詰めのための海獣駆逐艦『雷<いかづち>』なのでは?」
「だからです。駆逐艦でも古代戦艦を撃破することは難しいですから、フーカには奇策しか打つ手がありません。
例えば『択捉<えとろふ>』の艦橋ごと敵艦を砲で撃ち抜くとかです」
スイはともかく、『択捉<えとろふ>』発令所の職員たちはおのおの得心の表情を浮かべる。
実際の作戦内容は違うにしても、あの『作戦部長』ならいかにもやりそうなイメージ通りの非情さだという納得があった。
「フーカは味方だって躊躇いなく撃てます。
ろくでもないと後ろ指さされる作戦を考えて実施できてしまいます。
だからこそ、できればフーカにそんなことをさせたくないのですが」
「是非もないことです」
反応はそれぞれだったが、スイの意思に反対を示す者はいなかった。
「それに背中から撃たれたくはない」
「困ったもんだ」
「あんな作戦部長でも、スイ提督がそう言うなら」
スイは必要がなくとも発令所員たちの同意を確かめてから、命令を下す。
「現時点をもって、秘匿兵器<あくありうむ>を封印解除とします。
イリス漁業連合第1艦隊提督スイの命令に基づき、全館そして各艦は『あくありうむ』作戦行動へ移行してください」
『艦間有線、光信号通信。全艦へ通達。『あくありうむ』作戦の発動を下知』
『『択捉<えとろふ>』全館へ発令。作戦要項<フライフィッシング>を封印解除する』
『封印解除』の号令により、艦内各所で部署ごとに保管されていた各作戦に対応する文章を収めた防水封筒の封が切られていく。
発令所が<あくありうむ>発動へと行動する中、副長が苦言を呈する。
「提督は優しすぎます」
「えっとその、すみません」