提督を壊してはいけません( for 作戦部長殿)
潜水艇の開発。
クリアしなければならない基準は山ほどある。
閉鎖した艦内で8時間の乗員生存、海防艦で牽引、圧搾空気でブローして自力で浮上。
自力航行できなくとも、とりあえず海底で監視くらいはできる。
まあ、あわよくば。
海獣がつついて来たりしなければ。
海獣相手に疑似餌釣りみたいなことにならなければ良いと、本気で思う。
「これもヨナ様の知識ですの?」
「コンセプトはね。実現はミッキの設計と、潜水艦については鉱山労働者組合の協力によるものよ」
「鉱山と潜水艦になんの関わりが?」
その鉱山労働者組合戦士こと『ドワーフ』技術者たちはというと、後ろの方でアルゴとわきあいあい雑談している。
「というかこんな暗くして作業する必要はないぬ。
掌砲長から『電気はケチるな』って命令まで出ていたはずだぬ」
「ああすまんすな、炭鉱の癖が残っていけねえや。
おい誰か、もっと明かりつけろい!」
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「作戦部長、もうそろそろ限界なんじゃねえすか」
「ちょっと早いけれどまあいいか。<ロイヤル>に内部も見学させたいし、もう開いていいわよ」
「うっす」
<ロイヤル>を含め、全員で空中に固定された鉄管の上へと移動する。
固定ロックに乗り上がって、閉じたハッチを外から叩く。
「提督ぅ、もう出てきて良いそうですぜぇ!」
「え、フーカあなた提督ってまさか」
驚く<ロイヤル>を無視してフーカは鉄管に声を浴びせる。
「スイ、ハッチ開けるわよー、やっぱり内側には聞こえないのかしら」
できたて試作品である潜水艦用水密ハッチの外部非常バルブを、この道数年と言わんばかりの手慣れた手つきで回し開く。
底の知れない闇がぽっかりと空いていた。
やがて目が慣れると、機材に囲まれて身じろぎも難しい狭く真っ暗な閉所の底。
スイが椅子の上に小さく膝を抱えた格好でうずくまっていた。
うつろな目に、聞こえないほど小さな声で何か形容し難い歌のようなものを歌っている。
完全に精神に不調が出ている状態のそれだった。
「フーカ! あなたスイに何をしましたの!?」
「なにって、ただ潜水艦内に8時間ほど閉じ込めただけだけれど?」
漏水で溺死しないよう水槽から引き上げてあるし、酸素量もちゃんと計算してある。
スイは眩しそうに目を細めてから、ゆっくりとした緩慢な動作で自分の腕時計を見る。
「ふーか、じかん、まだですけど」
「もういいわ。艦内見学の割り込みが入ったし、もう6時間もいたんだから、十分よ」
「ふえぇ、ふーかぁ」
スイは力のない声に腕で、引き上げてくるフーカを抱きしめた。
「ふーかのあどばいす、うたをうたうのはよかったです。こごえですけど」
「作戦中は静音と聴音もあるから歌えないけれどね。初めてにしてはよく耐えたわ」
よしよし、とでもいわんばかりにフーカは頭を撫でまでするが、スイは抵抗する気力もなし、という有様。
「フーカっ!! わたくしたちの提督を簡単に壊さないでくださいまし!!!」




