竜の墓所9
準備がおわり、港湾に横付けした古代戦艦イリスヨナへと、使徒竜がやってくる。
慌てて私だけ先に来たので、使徒竜への対応をレインに任せっぱなしにしてしまって申し訳ない。
使徒竜を先導するため甲板に上がったレインは仕事からいったん開放されると、なにやら先ほどから足元の甲板下をずっと恐々の様子で気にしている。
「ヨナさま、艦内にいるのはリッチーや動死体王のたぐいですか?」
『我様はそのように恐れられるような者ではないのだがな。血統は古いかもしれんが。ヨナの友人は心の真っ直ぐなお嬢さんであるらしい』
答えた機関長の声は、艦内放送を通した私にしか聞こえていない。
機関長はずっと艦内にいたし、なんならレインと出会う前からでいまさらなのだが。
レインのように魔術ができるヒトにとっては、艦の奥から出てきた掌砲長になにやら感じるものがあるのだろうか。
「ごめんね竜の歓待おまかせしちゃって」
「いえそれは私の専門分野ですし構わないんですけど」
その使徒竜はといえば、足元のハッチを見つめるよりさらに深く顔を伏せたあとは、ひたすら無言。
機関長は開いたハッチの下にいて、艦外には指一本も出さない。
ハッチの向こう側には、内外の光量の違いで底の知れない闇が生まれている。
甲板上の竜からも見える機関長は、身体の小ささも合わさって遠近が狂って見えた。
「話せ」
「拝顔をお許しください」
「許す」
「よもやガリバー聖娘にお会いすることになるとは思っておりませんでした」
機関長は『私も挨拶することになるとは思ってなかった』と答える。
「我様が厄介になっているイリスヨナは、墓荒らしを憂慮するだろう。
よもや我様の祝福した死者が暴かれるようなことは起こらないと思うが、気に留めておくと良い」
「お心遣いありがとうございます」
「死者の安らかな保管を願うぞ」
「もちろんです」
「我様が古代戦艦イリスヨナに住んでいることは秘匿せよ。
墓所では共有していいが、外には出すな」
「もちろんです」
「うむ、では後は任せた」
それだけ話すと、機関長はあっさり奥に引っ込む。
ハッチが閉じた




