竜の墓所5
『あーヨナ、聞こえるか?』
遺体の準備を待っている間に、この場にいない機関長が突然話しかけてくる。
この遠距離通話は魔術とかではなく、古代戦艦イリスヨナの機関室でなにか話せば、イリスヨナそのものである私には知覚できるというだけの話だ。
返事も艦内のスピーカでする。
『もちろん聞こえるわよ。機関長、どうしたの?』
『遺体なんだが、受け渡し場所を港湾に変更してくれ。イリスヨナの艦内にいったん収容した上で、受け渡しを艦上で行いたい』
『私はべつに構わないけれど、事情は知らないほうがいい系の話?』
『知らんままでいたほうがいい話だ。興味もないだろう』
それはそう。
掌砲長には、古代戦艦イリスヨナの秘密機能とかを黙ってもらっている。
『私自身』がそれを知ってしまうと、新機能の制御負荷が増えてしまう。
巫女であるイリス様の負担が増えて体調に大きく悪影響だからだ。
機関長は『ヨナ』が生まれるより前から古代戦艦イリスヨナを整備してきたわけで、その管理手腕を信頼している。
だから、その機関長が知らないほうがいいと言うなら、実際そうなのだ。
『使徒竜さんが了承してくれるかしら?』
ここまでの流れからするとあっさりOKしてもらえそうな気はするが、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
『我様の名前を出せば大丈夫だ。顔を見せたがっているとでも言え。ただし、周囲には聞こえんようにな』
『機関長って隠遁でもしてるの?』
『ああそうだぞ。世間に存在と居所を知られたくない』
それに使徒竜に名前で通用するというのは、もしかして有名人だったりするのか。
掌砲長も同じだったけれど、古代戦艦イリスヨナの乗員には雲隠れしなければならない事情持ちしかいないのか。
『その掌砲長にも声をかけてくれ。錬金術師ならほら、なんという名前だったか、あの細長く小さな『瓶』を持っているだろう。あれが必要だ』
試験管のことか。
確かに、連れて行ってもらった素材屋さんには鉱物を詰めた試験管が並んでいた気がする。
掌砲長自身も、錬金術師として素材の加熱や撹拌をするために持っているだろう。




