戦闘機『桃音』と設計ミス1
「これは私の設計ミスだ」
<ウォル>は『桃音』を背にして結論を述べた。
倉庫に運び込まれたスクラップ寸前の四号機『桃音』。
騎乗竜と戦い撃墜された参号機『翠玉』の残骸は、座席クッションの燃えさしからネジのひとつまで丁寧に拾われた。
一部の部品は亡くなった搭乗者の厚い血糊がついたまま。
世界初の空戦によって受けた機体の損傷を検分するため、厳重に収容されていた。
結論を出す会議を前にした最後の検分を終えて、倉庫内にあるとなりの会議室。
事前におおむねの結論は出ており、最終報告書が淡々と読み進められていく。
「『翠玉』と『桃音』は、『防弾装甲』については十分に考慮して最大限に装備していた」
設計主任の<ウォル>は事故報告書をまとめる場で、結論として発見した翠玉シリーズの『欠陥』について自ら語っていく。
「しかし、実際に必要だったのは防弾ではなく『防火』だ」
それに耐魔術性能も必要だった。
魔力の影響を受けにくい『貪銀』ことアルミニウムを使用している部分は大丈夫だった。
だが、鋼鉄の基礎構造などは、空戦中に敵竜の飛行制御魔力をかすった部分などが歪曲している。
ヨナから飛行機設計の仕事を請けたさいに提示された、『乗員の命を守る』という要求を理解できているつもりだった。
だが、ヨナが知っている戦闘機が戦う相手と、この大陸世界で航空艦船が戦う相手はまったく違う。
つまり大陸世界に固有の事情を考えて設計しなければならなかったのを見落としていた。
翠玉シリーズの仮想敵は同世代の航空機などではない。
根本的な飛行方式の違いにより、機動性に優れ、大積載量をもつ竜。
そして彼らの攻撃は、航空機関銃の7~30mmではない。
はるかに貫通力の高い魔力を纏った槍と、同じく魔力を纏って金属さえ燃やすブレスの炎。
「現行の『翠玉』に施せる防弾性能で魔槍を防げないことはわかっていた。
だが、防弾にまわした板厚があればブレスを防ぐことはできたはずだ。
竜の飛行魔力に触れて構造材が歪み、ブレスの熱で外皮や操舵機構にダメージを受けて、『翠玉』の運動性が大きく低下した。
それが撃墜の原因だ。私は方針を誤ったんだ」




