幕間:エーリカ嬢の賠償交渉1
「極東大陸鉄道の実権掌握へのご協力、ありがとうございました」
中央竜皇国の王宮にある庭園のひとつ。
エーリカ嬢が竜皇国の王と、非公式の場で茶を囲んでいた。
「この広い大陸では、宣教師を派遣して教えを広めるにも大陸鉄道が不可欠です。
その鉄道を吸血鬼に押さえられていたのは、聖竜教会を擁する国としても、思うところがおありだったのでは」
吸血鬼派と竜信仰は、大陸の実権支配において対立している。
宣教だけではない。
交易も大陸鉄道あってこそ。
母体である竜皇国の発展も、吸血鬼に交易のかなめを押さえられた中での舵取りには難しさがある。
そのため、吸血鬼が掌握している大陸鉄道から実権を引き剥がすというのは、竜皇国としても利のある話だった。
「反対しなかっただけだがな。とはいえ、約束は守ってもらおう」
「わかっています」
竜皇国は鉄道輸送を絞ることで、イリス漁業連合を干上がらせるつもりだ。
エーリカ嬢からすれば、母国である辺境国アドレオの交易量を減らしたくはなかったし、イリス漁業連合との商売も縮小するのは美味しい話ではない。
だが竜皇国の協力を得るためには必要だったことであるし、続けて次の『助力』を得る交渉のための足がかりでもあった。
それに、悪いことばかりでもない。
竜皇国は、鉄道輸送を縮小することでかえって『イリス漁業連合が強靭になってしまう』可能性に気づいていない。
宿敵であるヨナが強大になることは、エーリカ嬢にとっては喜ばしい。
宿敵がより強大になることを想うと、それだけで身体が疼く。
「しかし、よくもまあ我々の助力を得ようなどと考えたものだ。
母国の発展はあの商会なしにはありえないというほどではないか?」
「いずれ衝突する相手ですから」
「国内の有力他勢力を邪魔して排除したい、といったところか」
エーリカ嬢は微笑みのまま無言で答え、王はそれを肯定と勘違いする。
いまだってヨナが強大になることを焦れるあまり、興奮する身体を抑えて耐えているというのに。
妨害するなどありえない。
「母国に奇襲攻撃されたのですから、もちろん怒り心頭というものですよ」
言葉と裏腹に、怒りとやらをまったく感じさせない余裕の表情で、ゆったり優雅な仕草とともに茶に口をつける。
「ですがいまは大国ストライアとの戦争中です。
ですから私心や郷土愛をひとまず措いても、ご協力いただきたい大義があります」




