造船港湾復興計画 / ドック浸水
巨大な側溝になった建造ドック跡に沈む7番艦の艦橋を背に、ミッキは造船における損害状況を列挙する。
「建造途中であった択捉型海防艦の5番艦6番艦7番艦を喪失しました。
また造船台を建てていた雷型駆逐艦の2番艦も建造スケジュールは白紙の状態です」
潜水艦対策は追々として、まずは喫緊の課題である造船所の損害と造船能力の復旧について。
「建造能力についてですが、イリス漁業連合が造成した3系統の建造ドックすべてが被害をうけ、現在使い物になりません。
強制注水したドックは防水扉も破損しており開閉は効かない状態で、排水作業は困難です。
都市計画部門では復旧するより新造したほうが早いと結論しました。
よって防水扉を撤去。浸水した既存の乾ドックは排水を諦めて以降は整備港として使用します」
「効率としてはそうしたいけれど、心情的な面はどうするの?」
広報科の領分について、トーエはあらかじめ答えを用意している。
「被害箇所を海浜の記念施設として残すのと、新造ドックを復興のシンボルにする方針とします」
被害を受けたイリス漁業連合の職員たちと周辺住民には、何かしらの『立ち直った』というチェックポイントが必要だ。
そこで、原状回復できないなら新規展開をもって代えればいいと。
「新造艦の建造については、拡張計画を前倒しして第4系統の建造・整備ドックを構築してそちらで行います」
ミッキはフーカに向き合う。
「新造艦はそういうことですので、急造しますが6ヶ月かかると考えてください」
「ええ。わかったわ」
フーカは不満も反対も述べずにただ受け入れる。
「新造艦の補充は当面ないとして、既存艦は洋上に復帰できるかしら?」
「既存艦の補修については幸いなことに、建造中だった海防艦で使用予定の消耗品類と、取り付け前だった備品類がそのまま使用可能です」
「さしあたり、遠征から帰ってきた就役済みの択捉型の中整備と補修、必要なら重整備を行います」
「補修は回避行動が取れるところまでを優先して欲しいわ。次の襲撃があったとき動けなければマトになるだけよ」
「被弾した建造中の択捉型を、状態と必要に応じて部品取りに使うかもしれません」
「ヨナ、かまわないわね?」
もちろん良い。
ミッキとフーカの判断に反対するはずがない。
「『択捉<えとろふ>』と『雷<いかづち>』は使ってもいいかしら?」
「最低限の整備に1週間ください。それで漁業活動は可能ですが、戦速は出ません。戦闘はまだ無理です」
「浮いているぶんには使えるから問題ないわ」
最低限の安全処置をしたら、2隻ははしけ曳きとして漁業に復帰する。
「3番艦『佐渡<さど>』は特に損傷が激しく、水揚げしての修理が必要な状態です。
入港可能な乾ドックの建造だけで2ヶ月かかります。再度進水は3,4ヶ月先を見てください」
「ドック建造を待っている間に沈んでしまいそうね」
フーカの言葉はまるで皮肉とも取れるものではあったが、どうやら単純に事実の指摘だった。
ミッキは特に気にする様子もなく答える。
「港湾内であれば沈没しても引き上げて修理します。引き上げ工程の策定から必要になってしまいますが」




