空襲被害後の御前会議 / 聖竜教会との停戦交渉の顛末
「それで、騎乗竜で襲ってきたのは『聖竜教会』だっけ、ソコだっていうのは確実なの?」
「敵の中に聖竜教会の先導竜がいましたから、間違いありません」
聖竜教会とやらの他に犯人がいる可能性があるなら、全方位を警戒し続けなければならなくなってしまう。
とはいえ、『教会』所属の宗教専門家であるレインが断言するなら、間違いないのだろう。
ちなみに聖竜教会は、竜を信奉し大小6つの竜皇国を統べて他国への影響力もある巨大教会組織とのこと。
「対応には、レインが交渉に向かってくれたのよね」
「正確には、近隣国にあって連絡のとれる教会支部に。
秘密保持もあるのか、どうやら支部にも事前連絡していなかったようです。ともかく交渉自体は楽でしたよ。
所属不明の竜による空襲の発生に大慌てして、状況確認に奔走していましたからね。
慣習による無言の約束ではありますが、無事に1年の停戦をとりつけました」
「さすがレインね」
「ひとつ問題として、聖竜教会は今回の空襲について、直接の関与を否定しています」
「でも聖竜教会の竜がいたんでしょう? 言い訳効かないんじゃないの?」
「イリス漁業連合が相手なら、通る無理だと思われているようです。
実際、撃墜しなければ聖竜教会の竜だという証拠は残らなかったわけですし。
相手は新参で立場の弱い『商会のようなもの』にすぎないイリス漁業連合。
勝ってしまった後なら、奇襲攻撃の理由はなんとでも言い繕えるはずだったわけです」
まさか撃破されるとは思っていなかった、ということらしい。
「それは大丈夫なの? 停戦を守ってもらえるのかしら」
「今度こそ本気のもう一撃をくわえて汚名返上、って考えるでしょうね」
「幸いなことに、しばらく聖竜教会に再攻撃の余裕はありません。
聖竜教会が今回遣わした騎乗竜の爆撃部隊は、大国アルセイアの貴重な航空戦力ですから。
独断で紛争を起こして是非を問われない立場であっても、10騎以上を損耗したともなれば責任問題です」
まあ竜を使役管理していること自体が権力の源泉そのものだから、管理責任が問われる事態になればたちまち弱る、というわけだ。
攻撃した側である聖竜教会が文句言われるのは当然として、立場の弱いウチに火の粉が飛んでこないといいのだが。
「竜信仰は吸血鬼信仰と長年の睨み合いの関係があります。
ですので今回は吸血鬼勢力もイリス漁業連合へ横合いから追撃よりも、敗北に乗じて聖竜教会の抑え込みにかかえってます」
「敵の敵はなんとやら、ってやつかしら」
「どちらかというと、真の親友はいない、ってやつでは」
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「ところで停戦条件って何だ? この前の吸血鬼部隊との衝突といい、今度はいくら払うことになるんだか」
掌砲長の口調は特段気にするようでもなかったが、財政負担は掌砲長に処理してもらうばかりなので、ちょっと申し訳ない。
「ああ、あの敗戦ね」
「ヨナが戦闘の勝利に乗じて相手に『戦勝を押し付けた』だけじゃない」
賠償金付き(食料現地配送の現物払いとはいえ)なのだから、吸血鬼のみなさん、ちょっとは喜んでくれてもいい。
「休戦の条件というべきかは、ともかくなのですが」
レインは込み入った説明を端折って、こう答えた。
「イリス漁業連合は来年のエアレースに参加することになりました」




